『鍵』おわる
日本の歴史上、最も暑い2010年の夏。HBギャラリーで開催された伊野孝行・丹下京子二人展『鍵』にお越し下さった皆様ありがとうございました。HBギャラリーのエアコンがポンコツで全く効いておらず、汗を拭いながらの鑑賞どうもすいませんでした。
二人でやることに意味があり、また、二人でやらなければ意味がない展示を目指して制作してきました。すくなくとも1+1が2以上にならなければ意味がありません。グループ展も5人だったら足して5以上にならなければいけないのですが、たいてい1にするのも難しい。最初は『鍵』とは違うテーマでやろうとしていたのですが、「そんなんやって何がおもろいねーん?」という親切な方からのアドバイスもあり、それをいったん白紙にして、また考えていたとき谷崎潤一郎の『鍵』を思い出したのでした。
『鍵』を思いついた時点で「これはうまくいくかも…」という気がしました。なんとなく。夫婦がつける日記を交互に読んでいく形式。男女の視点。ヒワイな話。簡単な構成の話ですが、ページ数はかなりあり、どこの場面を描くか決めるのに2ヶ月費やしました。かなりバッサリ切ったので、後は絵でなんとか補わなければいけません。丹下さんは普段とはひと味ちがった雰囲気の、とても重苦しくて陰気な絵を描いてくれました。僕の軽い水彩に対照的になるように考えてのことです。一枚描いてはスキャンして画像メールで送り合いました。コール&レスポンスも物語の流れを作っていく上で必要です。
イラストレーターの仕事は読者様に届ける絵のエンターテーナーです。いつもの仕事は編集者やデザイナーの方といっしょにやります。それに関しては不満はないですが、自分たちでゼロからはじめたらどんなものが出来るのか試せるのが展覧会です。展覧会を見に来て下さる方は奇特な方です。絵に興味をもっている人は以外に少ないのです。展覧会のたびに呼びつけられる僕の学生時代の友達は、いつもわかったようなわからんような顔をして帰っていきますが、今回はおもしろそうにしてくれた。イラストレーターの芸を示す上でも、物語の重要性を実感しました。
イラストレーションは絵の「機能」のことで、絵の「種類」ではありません。今回は『鍵』という文芸作品をテーマにしましたが「装画」でもなく「挿絵」でもないアプローチにしました。今は本の表紙を描くことが目標みたいになっている風潮がありますが、電子書籍の到来とともに、もっとイラストレーターの才能がいろんな形で機能して欲しいと願っています。(だって、仕事、ドひまやし〜)
会場の空間もふくめて味わって欲しい展示だったので、ブログ上に絵と文章を交互にのせる形でアップしてもそんなにおもしろくないかもしれません。誰か役者さんに朗読してもらってDVDにしようかな〜。テレビ紙芝居のように。僕はいい声だとよく言われますが、滑舌が悪くて声がこもって聞き取りにくいので、声優はやめときます。
ツイッターで「展覧会百年史に残る名展」とか「今年一番」とかご祝儀もこめた暖かい声援、ありがたかったです、しかし!今年の12月に僕は「リトルモア地下」で個展『画家の肖像』をやるので、まだ「今年一番」というのは早ーい!なんつって、ただ自分にプレッシャーかけてみただけです。ごめんなさい。ああ、憂鬱だ!そう、だから『鍵』を見逃した皆様、チャンスはもう一回ある、というかまたやんのか〜、と思わないで来て下さいね♡