世界満腹食べ歩き14~18
小説現代で連載中、岡崎大五さん『世界満腹食べ歩き』。14回からはモノクロページに移動になった。岡崎さんの旅は素晴らしい。お世辞じゃなくて毎回面白い。イラストレーター冥利につきるというものだ。
しかし、この連載には私の鬼門の「地図」がある。
この連載をアップする時はいつもボヤいているが、地図を描くのが苦手だ。「だいたいでいいじゃん、だいたいで」そうやって今まで生きてきたのだが、地図にはそれが通用しない。
読者の立場で言えば、いい加減で雑な地図が、雑誌に載っていると興ざめしてしまう。雑誌の記事は、読者の想像力をかきたてるイリュージョンだ。地図もその一端を担っている。だからちゃんとやらないといけないわけ……。
アメリカのニューヨークの位置がわかるようにするには、まわりはどの程度の広域で描けば良いか?グリーンウッド墓地がわかりやすく見えるようにするにはどういう工夫が必要か。入れる地名はどこを選択するか?州の名前は欧文にして目立たなくした方がいいかも。綴りは間違っていないか?
こんな簡単な地図でさえ、雑な私には大変だ。
デザイナーの日下さん、担当の編集さん、校正の方に、ここが違う、ここをもう少しこう、誤字脱字あり……とピンボールマシンの球のようにあっちからこっちから修正の指摘を受け、やっとの事で描き上がって、掲載されるのが上の誌面のサイズ……。悔しいから今回から地図だけ別に載せる!でも、私は地図が苦手だけあって、残念ながらあまり楽しい感じに描けていない。このモロッコと次のマレーシアは地図が簡単で助かった。岡崎さんの原稿が送られてきて、「あー面白かった」という感想の後に来るのは、地図が大変かどうか。簡単だとほっとする。1960年代半ばに「イラストレーション」という言葉が日本で使われだし、すぐに「イラスト」と略されて使われるようになった。単に長ったらしいから略されただけなのかもしれないが、最初に略して使い出したのはどこだろう?一説によると「イラストマップ」がきっかけとか?いや、よく分からないが誰かがそう言っていた。
確かに「イラストレーションマップ」だと長すぎるし、絵のたくさん入った賑やかな地図は「イラストマップ」と軽く呼ぶ方が合っている気がする。今も雑誌ではイラストマップは目にするが、とても楽しいものだ。『世界満腹食べ歩き』で僕が描いているのは単なる地図で、「イラストマップ」と呼べるものではない。 その国の雰囲気は扉絵や料理の絵でも出すようにしているけど、それだけじゃ読者の方は脳内トリップできない。やっぱり地図がないと。グアテマラと聞いて、すぐに場所がわかる人はそう多くはない。こういう場合は広域図も広くとらないといけない。
別にきちんと地図を見てもらわなくても、パッと見て、「あ、あのへんの国の話なんだ」「字が読めないくらいに小さいけど、ちゃんとした地図っぽいね」と思ってもらえればそれでいい。いや、一字一句文字校正までしてやってるんだけど〜。それが我々の仕事だから〜。正確に描くことが地図の本当の難しさではない。地図の本当の難しいところは省略することだ、と前にも私は書いた覚えがあるが、このロンドンの地図ほど身にしみたことはない。
道路と鉄道と地下鉄が地獄。道だって本当はもっとたくさん通っているが、省略しないことにはゴチャゴチャになってしまう。でも都市らしさは欲しい。さすがのグーグルマップも省略はしてくれない。自分の知っている街だったら省略作業も見当がつきやすいが、ロンドンは6年前にちょっと行っただけ。よくわからん。
「この道はいらん」「ここはなくてもいいか。いや、この通りは、鉄道と交差しているから重要かも」私は血管をつまんで考え込む執刀医のようだ。そうやってなんとか省略手術を終えたつもりで、ラフを作って見せると
「地下鉄が良くないですね。ウォールター駅は鉄道、ウォールターではなくウォータールーです。チャリングクロスも鉄道。ヴィクトリア駅(ビクトリアでない)も鉄道。右横のシティ・テムズリンク駅らしきところも鉄道。リヴァプール(リバプールではない)・ストリート駅の駅名が該当のところと離れ過ぎここの駅には地下鉄は乗り入れていない」「大英博物館がここなのはおかしい」「ロンドン塔を、中にある建物のひとつであるホワイトタワーだけにするのは変かもしれない」「B&Bがそれらしく見えるようにアイコンを工夫して」とデザイナーの日下さんから細かくチェックが入る。日下さんは地図が大好き。いや〜ほんと、チェックする方もする方、ようやる!いや、お世話かけております。
で、たっぷり一日仕事になったロンドン地図であるが、掲載サイズはほぼ名刺くらいなんだよなぁ。でっかいサイズで地図描きたいなぁ。いや、描きたくない、描きたくない。