石井鶴三はすばらしい
前に板橋区立美術館に行った時に、石井鶴三の売れ残りの図録が安く売っていたので、ラッキーと思って買った。久しぶりに取り出して見ていたら、やっぱ石井鶴三はおもしろい!と改めて思いなおした。何が素晴らしいかって、描いてるものが変わってる。
これは「縊死者」というタイトルの水彩画だが、なかなかこんな題材は描かないよ。続いては「行路病者」という作品。手や顔のむくみがリアルだ。石井鶴三は社会問題を告発した画家ではないが「私はこれまでの境遇上から、路上雑多の光景に対して、かなり深い感興をそそられる。行路病者だとか電車の事故だとか、公園の雑踏だとか、そういう群衆を眺めるとき、そこには一種の人間味がたたえられていて、私の胸を強く打つのである。」という本人の言葉にもあるように、何か強い批判が最初からあったというより、人間に対するまなざしから自然に批評精神の高い作品になったようである。この電車の中を描いた絵なども、さきほど本人が言っていた「雑多な光景」のひとつだけど、ここには社会批判などなくて画面を構成する純粋絵画的なおもしろさが主だ。描きたい内容があり、しかもそれを格調高い画面に作れる。こりゃ、いつも僕が目指してなかなか出来ないことだけど。とくに画面作りが。。。「手術」この絵もとくに批評性のようなものは感じられなくて、ただ手術を描いたという感じが、面白いと思う。「縊死者」も「行路病者」もただそれを描いた、という感じが僕は好きだ。はい、お風呂につかっている人を描きました、というこのそのまんまな素直な感じがたまらない。結構お風呂シリーズの絵が多くて、きっと人が湯船につかってるところの視覚的おもしろさに惹かれて描いたのではないだろうか。