最近の挿絵
25、6歳の頃、時代物専門の挿絵画家になると決めた。
その頃時代物を描こうなんていう若者は極めて稀であった。
しかし、自分で決めただけで、仕事はいっこうに来なかった。
無聊をかこつ間に出版界には時代物ブームが訪れ、「それ見たことか」と予想が的中したことに得意であったが、悲しいことに自分はその時代物ブームの波には乗っていなかった。
「あぁ、オレの目論見は見事失敗に終わったことよ…」と時代物ブームの大波を見ながら、砂浜で蟹と戯れているような日々が15年近く続いた。
あの蟹と戯れていた不遇の時間が、コチコチの挿絵画家志望からよろずなんでもイラストレーターへと変態をうながしたわけで、今となっては絶対に必要な時間だったわけだ。しかしいつ報われるともわからない日々の中で「いつまでオレは蟹と戯れてりゃいいんだ!カニめ!カニめ!カニのバッカヤロー!」と我慢しきれず、叫んだものである。
いや、カニはさっき思いついた例えなので、カニのことは叫んでいない。それにこの苦労話は何度も書いたので自分でも飽きているのだが、「無聊をかこつ」という最近知った言葉を使いたくて、つい書いてしまった。
というわけで、いろんな仕事をいただいていても、やっぱり嬉しい時代物挿絵なのだ。小学館の「STORY BOX」で連載していた谷津矢車さんの『しょったれ半蔵』が最終回を迎えたので、今週はその挿絵と、他に単発物、そして今度から始まる新聞挿絵のお知らせです。
ブログに載せる時に、気に入ってない挿絵は省いてしまうのが常だが、この『しょったれ半蔵』はギリギリ全部オッケーということにしておこう。めずらしいことだ。いいことだ。
ところで、あのぉ、ええっと、この雑誌さぁ、イラストレーターのクレジットが小さすぎない?…。欧文なのはいいとしても。
名前がデカいと格好悪いのか?一応こちらも自分の名前を売って商売をしているフリーランスなんである…。この小さい欧文の名前を見ていると、自分たちの仕事の境遇を思い知らせれるようでちょっぴり悲しくなってくる。この件は書こうか書かまいか迷ったが、やっぱり書いてしまった。「オール讀物」に掲載された平岡陽明さんの『監督からの年賀状』の挿絵です。
このところ「オール讀物」で平岡陽明さんの短編が載る時は、挿絵を依頼されるようになった。作家とコンビのような存在になれるのは、挿絵をつけるものとしては望外の嬉しさがある。
平成の世を舞台にしても、良い意味で昭和な感じが漂う小説を書く平岡陽明さんは、私より絶対に年上だと思っていたが、プロフィールを読むと6つも年下なのに驚いた。四十も過ぎれば、もう年上とか年下とかもう関係ないみたい。年上な感じがする年下の人って、たのもしくていい。平岡さんとはお会いしたこともないのですが。
ちなみに私は32歳くらいで精神年齢がとまってしまった。「日本農業新聞」で島田洋七さんの『笑ってなんぼじゃ!』という連載が、昨日からはじまった。小説ではなくてエッセイなのだが、新聞小説の欄で掲載される。
「日本農業新聞」が毎日送られてくることになったので、今までとっていたA新聞をやめてしまった。最近新聞も全然読めてなくて…。
「日本農業新聞」は〈青森県 ナガイモ首位奪還へ〉〈JA場所 満員御礼〉といった記事が満載で、これだけ読んでいても世の中のことはわからない。いや、かえって特定の視点から眺めた方が、世の中のことがよくわかるかもしれない。