さよなら、一休さん
Eテレ『オトナの一休さん』ついに最終回です。
第二十六則「さよなら、一休さん」。すでに確認用ビデオを見ているけれど、本放送を見てまたウルウルしちゃいそうだ。
史実の一休さんはとんち小僧ではなく破戒僧だった、くらいの知識はあったけれど、このアニメの仕事をはじめるまで、ちゃんと向き合ったことはなかった。
仕事がはじまったらはじまったで、〆切に追われる日々。なかなか一休さん研究も進まない。なにせ、一人でアニメのすべての絵を描かなくてはならない。ざっと数えると全26話で730〜740枚の絵を描いた。ラフスケッチと本番で使用した紙を積み重ねると、その厚みは30センチを超える。それなのに『オトナの一休さん』のウィキペディアでは、私はキャラクターデザイン担当ということになっていて(間違いではないんだけど)、なんか楽な仕事っぽい印象がするではないか。
確かに、ふつうの商業アニメは、キャラクターデザイン担当とそれを絵にするアニメーターは別な場合が多い。複数の人で手分けして描くためには、どうしてもキャラクターの顔を記号化する必要がある。
そして描線も個性を抑制したニュートラルなものでないと、描く人によってバラツキが出る。漫画家とアシスタントの共同作業で作られるタイプのマンガの絵にも同様の特徴が現れる。
『オトナの一休さん』は真逆である。もちろんキャラクターなのである程度は記号化はされているが、ドラえもんやのび太くんのように、モロに記号の絵ではない。だから、回によって一休さんの顔がマチマチ。自分でも以前描いたような顔に描けない(!)。振り返ってみると第一則「クソとお経」の時の顔が一番好きだ。一休さんだけでなく、新右衛門さんも養叟和尚も。まだ完全にキャラとして顔の描き方が決まっていないので、逆に表情に幅がある。私は何も進歩しとらんということなのか…。『オトナの一休さん』のアニメーターは絵を描いて動かすのではなくて、私の絵に動きをつける仕事をしてくれてます(特殊効果などでは描いてもらっている部分もある)。最終回担当は野中晶史さん。野中さんは第一則、シーズン1の最終回、応仁の乱の回など、要となる回を任されるアニメーターチームの隊長です。
先日、京都に行ってきた。一休宗純ゆかりのお寺、大徳寺の「真珠庵」と、通称「一休寺」という名前で親しまれる「酬恩庵」にようやく出向いたのだった。アニメを描く前に行っとけよ、という話ですがね。描き終えた今、ようやく私は一休さんに向き合えた。感慨深さもひとしおだった。
「酬恩庵」の一休さんの木彫は有名で、見るのを楽しみにしていた。写真は「別冊太陽」より。
で、実は「真珠庵」にも同じような木彫があってびっくり!
「一休寺」は誰でも拝観できるが、「真珠庵」は通常非公開(私は特権を使って「真珠庵」に入れるのだ、ハーハハハ!)なので、木彫の存在がそんなに知られていないのだろうか。
びっくりしたのは、「真珠庵」の一休さんには髪の毛があったことだね。
写真は至文堂発行「日本の美術 頂相彫刻」より。
「酬恩庵」の一休さんの木彫も、元は髪の毛や髭が植え込んであった。しかも一休さん本人のものが。今は穴だけ空いている。
「真珠庵」の一休さんの木彫は獣毛が植えてある。何の動物の毛だろう?
あなたはどちらの一休さんがお好みですかな?
さて、番組のホームページを見ていただくと、驚きの事実が!
最終回の次の週から、同じ時間帯で、第一則から再放送が始まるのだ。Eテレ得意の再放送でまたまたお楽しみください。