伊野孝行のブログ

阿部珠樹さん

ナンバーで「スポーツ惜別録」を連載されている阿部珠樹さんがお亡くなりになった。病気のためここひと月ほど休載になっていたが、よもやこんな急にお別れしなくてはならないなんて。

直接お会いしたことはなかったが、文は人なりで、阿部さんのお人柄に親しく接していた気がする。このブログで何度も告白しているように、わたしはスポーツに疎く、「スポーツ惜別録」でとりあげる人(阿部さんは競馬好きなので馬も多かったし、他には球場や漫画の連載の最終回をとりあげたこともあった)の半分も知らないのだが、毎回きっちり読み応えがあった。第52回 落ちない」大宮が、無念のJ2に降格。最終節に未来を見る。第53回 めぐり合わせの不運。ミホシンザンはなぜ、「谷間の馬」だったのか。第54回 川風で鍛えた美声。立呼出・秀男は「時代の子」だった。第55回 グラウンドの中でも外でも頑固で一本気。大豊泰和の不器用な人生。第56回 厳しさと優しさと。”極限の3試合”を戦い、日本柔道を守った男。第57回 薬物、マネーボール、日本人。“時代”と寄り添ったジアンビ。第58回 ずっと覚えていよう。後藤浩輝の笑顔と、見事な騎乗ぶりを。

阿部さんの視点で、引退や晩年の幕引きから見返すドラマには、おおげさなところがひとつもなく、とても好きな文章だった。文体にあらわれる体温やリズムが、こちらの気持ちまで整えてくれる。コラムでとりあげられたスポーツ選手が解説者になって、テレビにでているのを見かけると、自然に応援したくなるのは、あきらかに阿部さんの文章を読んだせいだと思う。

惜別録なので、時にしんみりとした読後感になることもある。ちょっとしたユーモアをそえるために私の場所が与えられていた。こういう時の気持ちはなかなか言葉におきかえられないが、どうもありがとうございました、と申し上げたいです。