令和おじさんモノマネ
先日、不動産屋に行き、手続きの書類を書き終え、カウンターで待っているときだった。
カウンター越しに座った不動産屋のおじさんが、ヒゲ剃り跡の濃い口元を動かしたかと思うと、「新しい元号は令和であります」と菅官房長官そっくりの声で言ったのだ。突然のモノマネに驚きの色を隠せず、僕はおじさんの方に向き直り、「え?いま、令和おじさんのモノマネしました?めちゃくちゃ似てるじゃないですか。もう一回やってくださいよ」とお願いした。
書類を待っている間のシーンとした時間に、絶妙なタイミングで放り込まれたモノマネ。名人は意外なところにいるもんだ。
おじさんはちょっと照れていた。「いや〜すごい似てましたよ、もう一回聞きたい」とさらにせがんだ。するとおじさんは、先ほどと同じように、僕の右横の誰もいない空間に視線を向けたまま、今度はニュース番組の司会者とコメンテーターのやりとりを、一人二役で落語のようにしはじめた。
これがまた抜群にうまい。コメンテーターは誰かわからないが、司会者はどうやら森本哲郎のようである。名前を名乗らずとも誰かわかるのだから相当な名人だ。でも、僕は早く「新しい元号は令和であります」を聞きたかった。それを知ってじらすかのように、おじさんはなかなかサビには入らず、ニュース番組の再現を続けるのだった。そんなもったいぶりもまた可笑しくって、僕は腹をよじって「はははは、全然、ははは、言いそうに、はは、ないですね」と笑い声と言葉を同時に吐き出すのに苦労した。
と、そのとき突然暗転した。状況についていけない僕は、ボーっとした頭で、なんとか把握しようとつとめた。
……僕の頭は枕の上にある。枕元のラジオからはTBSの朝の番組『森本毅郎スタンバイ』が流れていた。
つまり、夢であった。
この日は元号が発表された次の日で、菅官房長官の「新しい元号は令和であります」という音声を流した後に、スタジオで森本毅郎とゲストコメンテーターが喋っていたのだ。ラジオの音がそのまま夢の中の音になっていた。同時に夢の中では勝手なシチュエーションが作られていた。
こういう経験はみなさんもありますか?ただの夢よりも不思議ですよね。
二度寝したときに、よくこういうことがある。脚本をもらって瞬時に映画を撮っているみたいで、我ながら我が無意識に感心します。ふだん、無意識を意識することは難しいですが、夢と現のはざまで生きるというのはこういうことなんですね。