バルという名の食堂
先々週に更新した「世界満腹食べ歩き」は第4回だったが、第3回をすっとばしてしまった。だから今日は第3回「バルという名の食堂」の絵を載せよう。岡崎大五さんがスペインのバル(昼はカフェ、夜はバーになる店のこと)をめぐるお話。なかなか岡崎さんのもとめるバルに行き当たらないのだが、ついにこれぞ!という店に入った。マラガでのことだ。
〈観光客が集まる中心部からどんどん離れて歩いて行った。外国人観光客用に演出されていない店を探すのだ。橋を渡り、デパートを過ぎると、ぐっとローカル色が出てくる。バルにしては明るすぎる食堂のような店内で、作業着姿のおやじや、顔を真っ赤にしたのんだくれがサッカーのテレビ中継を見ていた。カウンターには、スカーフで髪を覆ったおばさんが、エプロン姿でやる気なさそうに、ショーケースに肩肘をついてぼんやりしている。
いいぞ、いいぞ、この倦怠感。人生とは物優げで、楽しいことなどちっともなく、あるのは苦労と満たされない気持ちばかりだ。〉
この文章を絵にしたかったのだが、そんなムードを描き出すのはなかなかむつかしい。ぼくはお酒は好きだが、友だちとベラベラしゃべりながら飲むのが好きなので、入った酒場が倦怠感のあるムードにつつまれていると、「しまった…」と思う。あ、でもこのバルは食堂でもあるわけですね。大衆食堂で野球中継を見ながら、瓶ビールを飲んでいるときのあの感じかな。それなら何度も経験している。
とりたてて言うべきこともない日常的な一コマだけど、エッセイや映画のなかでそういうシーンがでてくると、ととてもいいなぁと思う。なんでだろう?ただ客観的に描写するだけで、なんだか人生の本質まで出てしまうような情景になっている。食事をとりに、お酒を飲みに、人々が集うお店というのは、劇場ですね。おおげさに言うと。