ロックな顔
山中貞雄の現存する3本のシャシン「丹下左膳余話・百万両の壺」「人情紙風船」「河内山宗俊」は日本人ならどうしても観ておかなくてはいけない遺産だ。遺産といっても、重苦しさとはほど遠い、さわやかな風を感じるだろう。「丹下左膳余話・百万両の壺」は最高のコメディだが、当時の人は椅子からずり落ちたのではないだろうか。なぜならそれまでの丹下左膳は、おどろおどろしくコワイ怪人だったのに、おもしろいオジサンになっていたのだから。(この作品以降、丹下左膳のキャラクターは山中貞雄の作ったものを踏襲するようになるが、そろそろ怖い丹下左膳でリメイクして欲しい。)山中貞雄は時代劇しか撮ってないのが不思議に思えるほど作品が現代的だ。当時は京都で時代劇を撮り、東京で現代劇を撮る、というふうに撮影所が別れていた。それが理由らしいのだが、山中貞雄が撮りたかった世界は時代劇だったから、余計に新しさが際立ったのかもしれない。僕が初めて観たのは10年程前、千石にあった「三百人劇場」だった。超満員で上映中にも笑い声が絶えず、最後はみんな拍手をしていた。60年まえに作られた映画なのに、時代背景をまったく考慮しなくてもいい。天才のエネルギーは何ものもさえぎることが出来ない、と実感したのだった。ところで、大河内傳次郎は日本の役者の中でもっともロックな顔をしていると思ったのでこんな絵も描いてみました。