伊野孝行のブログ

プリンセスの物語

毎週ブログを更新すると決めてしまったので、仕方なく今週も更新します。

アクセス数も横ばいで、いつまでたっても無名なまま。有名になりたいなんて気持ちはとうに消えてしまったけど、それでも業界で生き残っていくには、ある程度名が知られていないと、仕事を頼むときに思い出してももらえない。

それに有名だと何かしら楽なところもあるのではないかと推測する。あつかいや何かの面で。

先日もとある展示のオープニングに行ったときに、平澤一平さんがそこにいた若いイラストレーター(女性)に

「あ、〇〇ちゃん、紹介するよ、伊野くんです、知ってるでしょ?」と紹介してくださったが「知りません」とにべもないお返事だった。

(いくら興味がなくても、せめて本人を目の前にしたら「すみません、存じ上げなくて。私〇〇と申します」くらい言うのがそういう時の八百長ではないんかい……)と内心では思ったが、自分の口からは

「いえ、知らなくて当然です。知ってる方がおかしいです。私は、無名な人間なので」という言葉がスラスラ出てきた。逆にペコペコ頭を下げておいた。

きっとこちらの内心などはバレバレだろうし、よくある出会いの一例にすぎないようなことも、サラッと流せない自分のこのウザイ性格が、ほとほと嫌なのであるが、同じ業界の若手にも認知されていないようでは、まだまだオレも頑張らねばならない……という燃料にもなるのである。

はい、今週の枕はこれにて終わり。書かなくてもいいことまで書いて、余計に人気がなくなっちゃうよ……。照手姫1今週はずいぶん前に描いた絵を載せます。去年の仕事です。主婦の友社から出ている「頭のいい子を育てる」シリーズ。今回の本は『お姫様や魔女がいっぱいでてくるおはなし』です。絵は『照手姫と餓鬼阿弥』より。照手姫3もう一つはギリシャ神話より『アドリアネーの糸』です。アリアドネ1アリアドネ2どちらもプリンセスが主役のお話です。はい、そんなわけで今週はネタに困ったから、アップする機会を失っていたものでお茶を濁しました。

ついでに告知。大阪の「オソブランコ」さんで『一筆箋展』が開催されています(台湾にも巡回するってさ)。私以外の参加者の皆さん、クォリティ高いです。「リソグラフ」という印刷機を使って作るのです。そうするといい感じのチープな出来になるのです。上が仕上がりで、下がデータ。ちょっと青の指定が濃すぎたな。ino3伊野B見本伊野A見本伊野C見本

「一筆箋展」

会場 オソブランコ
(大阪市浪速区幸町1-2-36 2F)
会期 2016年9月3日~30日
時間 12:00-20:00 (土日祝-19:00) 水曜、第二土曜休日
あともう一つ告知あった。
毎年恒例の銀座のリクルートG8で開かれているTISの展覧会も今日より始まります。今年は『158人の漱石 百年後ノ我輩、こゝろ、それから……』にも出品しています。
2016年9月6日(火)~ 10月6日

クリエイションギャラリーG8〒104-8001 東京都中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F TEL 03-6835-2260

11:00 ~ 19:00  日・祝日休館  入場無料

昔話法廷2016

昨年の夏、「もし昔話の登場人物が訴えられたら?」という斬新な企画とシュールな着ぐるみ(私は再現VTRの代わりに挿入される絵を担当していた)で大いに話題を集めたEテレの『昔話法廷』が今年も開かれる。

今回の裁判は「アリとキリギリス」「舌切りすずめ」「浦島太郎」の3本。放送は明日8月3日から。

昨年の放送した「三匹のこぶた」はドイツのミュンヘンで2年に一度行われる子ども番組のコンクール「プリ・ジュネス」で、世界各国の子どもたちの投票により第1位となり、「国際子ども審査員賞」を獲得したという。そして何故かグッドデザイン賞にもノミネートされたとかいう話も聞いたけど、私は結果を知らない。アリとキリギリス1修正この昔話法廷は人間が入った着ぐるみで裁判を行うので、絵も着ぐるみに合わせている。つまり、アリとキリギリスはあまり身長に差がない。アリとキリギリス3修正アリとキリギリスは昔から仲が良かった。ほら、子どもの頃はこうやって虫取りに夢中になったものである。虫のくせに……。さ、どんな展開が待っているでしょうか。裁判を乞うご期待。

舌切り雀1はい、お次は「舌切りすずめ」。アメリカの肥満児がアイスクリームを食べるように、すずめはおばあさんが米で作った洗濯のりを全部食べてしまった。舌切り雀11当然、おばあさんは怒り心頭!ヘッドロックで首を決めてすずめの舌を切った!確かに舌を切るにはヘッドロックしないとなぁ。浦島太郎1お次はご存知、「浦島太郎」なぜ浦島太郎が竜宮城に行ったかというと……浦島太郎5助けた亀に連れられて、なわけですが。これらの場面は今までに絵本などで繰り返し描かれたことでしょう。でも絵本には載っていない場面が「昔話法廷」では見られます。

「“アリとキリギリス”裁判」
NHK Eテレ 2016年8月3日(水) 午前9:00〜午前9:15(15分)

「“舌切りすずめ”裁判」
NHK Eテレ 2016年8月4日(木) 午前9:00〜午前9:15(15分)

「“浦島太郎”裁判」
NHK Eテレ 2016年8月5日(金) 午前9:00〜午前9:15(15分)

みなさんよかったら見てね〜!再放送もあるし、ネットでも見られるようになる(教材番組なので)と思います。

一休さんと曾我蕭白

昨日は「オトナの一休さん」第1則が放映されました。みなさん、見てくださいましたか?

私はテレビの前で緊張して待ち構えていたのですが、急にあくびが出て、眠くなってきました。緊張すると眠くなるタチなのです。IMG_1632

でも、はじまったらすごく集中して見ました(我が家には録画機器がないので、その分余計に)。大友良英さんの音楽とマレウレウさんの歌がつくと、雰囲気が変わりますねー。良い意味で気持ちの置き所を安定させない、つまり無縄自縛(むじょうじばく)から解き放ってくれる音楽と歌でした。
放送前からネットで話題にしてもらっていて、番組の制作に携わった人たちで集まった時に、「ありがたいねー」と話してました。どれくらいの人が見てくれたかわかりませんが、たとえば、視聴率1パーセントでも120万人の人が見たってことになる(この計算は合っているでしょうか?)わけで、そう考えただけでも頭がクラクラしてきます。私が普段、主な仕事場としている出版の世界とはケタが違うので、なんだかおっそろしいです。
……こうやって、注目されていると思っている自分がすでに恥ずかしいです。結局自慢話になっているところが、さらに恥ずかしいです。自意識過剰気味ですので、今週のブログはあっさりこのへんで筆を置くことにします。ではバイバイ。

と思ったけど、もう一つご報告。IMG_1621

先日「本の場所」で行われたトークショー、ご来場くださった皆様ありがとうございました。曾我蕭白の本物の絵を、ガラスケースも何もない状態で見ることができました。円山応挙も伊藤若冲も与謝蕪村も1点づつ出てました。コレクターの方の心の広さに感謝であります。トークは南伸坊さんが7割くらい喋ってくれました。まだまだ私のトークベタは改善されておりません。「オトナの一休さん」が始まるから気をつかっていただいたのでしょうか、会場のメインには曾我蕭白の描いた一休さんの肖像画(南伸坊さんと私の間にある絵)が飾られておりました。
曾我蕭白は「曾我蛇足十世」を名乗っていました。つまり自分は曾我派の開祖、曾我蛇足の十代目であると。これは蕭白による全くのデタラメなんですけど、実はこの曾我蛇足という人、室町時代に活躍した絵描きで、一休さんの弟子でもあったのです。そして一休さんは曾我蛇足の絵の弟子でもあったようです。お友達みたいな関係でしょうかね。一休さんの肖像画というのはいっぱいあるんですけど、曾我蕭白の描いた一休さん、全然似てないんですよね、笑っちゃうくらい。ハイ、おしまい。

特報!オトナの一休さん

Eテレで新感覚アニメ「オトナの一休さん」はじまります!アニメの絵を描いております。まずは6月に3本放映!

みなさんご存知の名作アニメ「一休さん」は日本だけでなく世界でも人気があり、特にお隣、中国では「最も親しみのある日本アニメ」というくらいに評判がいいらしいです。ところがちょっと待った!史実の一休宗純(1394~1481)は、ほんとは可愛らしいとんち小僧なんかではないのです!とんち小僧のイメージは江戸時代の説話集『一休咄』からつくられたフィクションなのです。

ZEN…それは究極の自由…すべてのしがらみにZENZENとらわれるな!

op2史実の一休さんは、禅宗の僧侶ながら、破戒の限りを尽くし、ぶっとんだパフォーマンスで室町時代の都びとをあっと言わせた人物であります。その、一見悟りとは無縁に見える一休の言葉や行動のすべてには、見てくれや形式にとらわれて安心する「無縄自縛(むじょうじばく)」な人々への身をもってのメッセージが込められているのでした。常軌を逸しためちゃくちゃな行いの中に、実は深〜い禅の教えがあったのです!「オトナの一休さん」は、知らず知らずに縛られている我々現代人の心を解き放ち、一日の終わりに見ることで、笑ってラクになれる5分間アニメなのです!1則−11第1則「クソとお経」放送予定日 6月6日(月)23時50分~55分 再放送6月16日(木)22時45分〜50分2則 −2第2則「雀の葬式」放送予定日 6月8日(水)22時45分〜50分 再放送6月20日(月)23時50分〜55分3則ー 5第3則「思春期の一休さん」6月13日(月)23時50分~55分 再放送6月22日(水)22時45分〜50分op4

「はまり役」という言葉がありますが、この「オトナの一休さん」の絵、120パーセント自分の素の部分で描ける感じがして、ノリノリです。「当たり役」にもなってほしい。そうすれば私もちょっとは有名になれるかもしれませんしね…。
「オトナの一休さん」は一休宗純の自作の漢詩集『狂雲集』や弟子たちがまとめた『一休和尚年譜』などを元にしています。
脚本はふじきみつ彦さんです。
まずはこの脚本がなければはじまりません。コント台本や不条理劇の脚本で活躍するふじきさんの書きおこす一休さんが、本質は外さないまま、アップトゥーデートされていて、すごくおもしろいです。
絵を動かしてくれるアニメーターは
野中晶史さん、幸洋子さん、飯田千里さん
のお三方が、一人一本を担当。それぞれの動きの持ち味の違いも楽しめます。この方たちに動かしてもらわないとアニメになりません。元祖「一休さん」がアニメなんだから、「オトナの一休さん」もアニメでなくてはならんのです!
そして豪華な声優陣!

一休宗純=板尾創路さん

蜷川新右衛門=山崎樹範さん

養叟宗頤=尾美としのりさん

そんでもって音楽は大友良英さん

みんな〜見てね〜!喝ーっ!1則−26

ちなみにこれが、本当の一休さんのお姿であります。一休さんのお弟子さんが写生して描いたらしいですが、私は日本美術史上屈指の肖像画だと思っています。早く国宝に指定すべきでしょう。
とんち小僧アニメ「一休さん」の中国人のファンの方が、この肖像画を見てこう言ったそうであります。「アイヤ〜!あの可愛い一休さんが、歳をとってこんなオジさんになっちゃったんだ〜」てね。IMG_1602

 

モランディ/長沢節

モランディを知ったのは20代の半ば頃、セツに通っていた頃だったかな?くわしい時期は忘れてしまったけれど、はじめて見た時はそりゃ驚いた。絵の冒険というのはチョモランマやアマゾンの秘境を訪ねなくても、ごく身近な庭のようなところで出来るんだなと思った。

練習曲がそのまま作品たりえるというか、細かい実験の差が、作品ごとの個性になっている。バッハの平均率クラヴィーア曲集を聴いてるようで気持ちいい。

バリエーションをつけまくった画家の絵よりも、逆にモランディの方が楽しめるかもしれない。同じような絵に見えるけど、みんな違う。間のとり方が無限にあるのを、目の前でやって見せてくれる。

先日、東京ステーションギャラリーにモランディ展を観にいったのだけど、意外に画集で見ていたときのほうが刺激的に感じた。ページをめくると次の作品がパッと現われる。その方がモランディの実験がくっきり見えた。

展覧会の広い部屋にずらっ〜と絵が並んでると、一つ一つの作品の差より、同じような絵が続くという空間の印象を先に受けてしまった。モランディの絵を並べるのはむつかしいのかもしれない。

いや、そのとき私は少し急いでいた。そもそもそんな見方はいけない。急いでいる奴には気づかない時間を押し広げて、そこで仕事をしているのがモランディなわけだから。モランディ静物画っぽくモランディの肖像を描いてみた。この絵は「画家の肖像」という作品集に入っている。「画家の肖像」はハモニカブックスより発売中です。クリック↓

「画家の肖像」はいつのまにかamazonで買えるようになっているではないか!

……なんだよ、モランディのことを語り出したと思ったら、おいおい、宣伝か〜い!

オマケにもうひとつ宣伝じゃーい。小説すばるで連載中の「ぼくの神保町物語」第2回は「長沢節信者」と題して、セツに通いはじめた頃の話を書いてます。IMG_1498IMG_1511思い起こせば昨日のことのよう……であるが、なんと22年も前の話であった。そして先生が亡くなってからもうすぐ17年。あの頃から気分は全然変わってないので、昔話をしている感じがまったくしない。最近は作文を書くにあたって、あの頃のことをよく考えているので、なおさら昨日のことのようだ。IMG_1512絵の隅に”This picture on Mr.HozumiKazuo’s work”と書き入れましたが、この挿絵はセツの第一期生、穂積和夫先生がかつてお描きになられた「セツ・モードセミナー案内図」を下敷きに、っていうかオマージュ、っていうかパクリ……はい、そんな絵です。IMG_1513細かいところは色々私なりに……描いてます。今年はこの作文のことで頭がいっぱいです。

読み物の連載はじまる

今日は2月16日、そして当たり前のことですが明日は17日。明日発売の「小説すばる」3月号で連載がはじまります。それも読み物の連載です。さっきポストをのぞいたら明日発売の「小説すばる」がすでに届いていて、どっきり。連載開始のおしらせは来週する予定でしたが、ゲンブツを見てしまって落ち着かなくなりました。来週までこの気持ちを引きずるのが嫌なので、今週の更新でお知らせしてしまおう。掲載誌が届いてこんな気持ちになるのは、はじめてイラストレーションの仕事をした時以来かも……。さいしょ掲載誌を手にとって、眺めてみましたが、表紙にも背表紙にも名前がなく、期待の低さがうかがえて、とりあえずひと安心。はじめてこの文章を読む一読者の立場になって、読もうと思いましたが、すでに何回も読んでいるので無理でした。おもしろいかどうか全然わからない……。

『ぼくの神保町物語 イラストレーターの自画像』と題されたこの読み物は、去年の秋に、人形町のビジョンズというギャラリーでやった展示が元になっています。わたしが19年間働いていた神保町の街のことを絵にした展覧会だったのですが、展示にあわせて原稿用紙で20枚ほどの文章も書き、冊子にして会場で売っていました。

展示を見にきてくれた集英社の編集者の方が、この連載の形につなげてくれました。第一回は「憂鬱なコーヒーボーイ」というタイトルで、神保町で働きはじめた頃のこと、つまりそれは、わたしがイラストレーターになる決心をした頃の話であります。まだ、物語自体が動いていないので、おもしろくないかもしれないです(いいわけ)。

神保町のことを書いた本は、これまでにもありました。ただ、それらのほとんどは古書店のことを中心に書かれているので、喫茶店のボーイの目から見た神保町の話は、今までにないはずです。そしてそのボーイはイラストレーターになりたい男で、なるまでにすごく長い時間がかかりました。同じところで延々と働いているのは情けない気分にもなりますが、おかげで街の定点観測ができていました。その間に街は変わりました。なにより自分も変わりました。街の話だけではなく、通っていた絵の学校セツの話や、絵の話、イラストレーションの話も入って、どちらかというと、そっちが主であるかもしれません。

これをうまく書き通せば、そこそこの読み物になることは自分でもわかっているのですが、いかんせん長い文章なんて書いたことがないので、一番の悩みの種。文章も書いて絵も描く、というスタイルは憧れでもありましたが、文章の方に慣れるまで時間がかかりそう。毎回8000字くらい書かなくてはいけないのです。書きあぐねたら、半分まで文章で書いて、残りは漫画にするのもアリ……それくらいの楽な気持ちで臨んだほうがいいですね。与えられたページ数だったら、文章と挿絵を自由にしていいと言われています。つづくそんなわけで、1年間くらい続く予定。本屋で見かけたら立ち読みでもしてください。