伊野孝行のブログ

カラヴァッジョ人生双六

先週のブログの記事は、「美術手帖」の3月号で宮川香山の人生双六を描きました、という内容でした。で、今週は「芸術新潮」の3月号でカラヴァッジョの人生双六を描いてます、という内容です。

「美術手帖」と「芸術新潮」というすごく狭い範囲の中で、大活躍。しかも同じ3月号で、人生双六をどちらにも描くという……。これは私の人生双六では、「調子にのって3マス進む」という状態ですが、禍福はあざなえる縄の如し、露出が頻繁になると、飽きられることを心配しなくてはなりません。

イラストレーターなんつうのは服のような存在で、かつては毎日のように着ていたお気に入りの服も、ふと気づくと、流行遅れのような気がして、新しい服と取り替えられる……そういう立場であることを肝に銘じて、なんとか飽きられないようにしなければ生きていけないのです。

16世紀のイタリアで悪名を売ったこの男には、私のようなチンケな心配はあったのでしょうか。38歳で死んじゃったから、心配が人生に追いついてなかったかもしれません。なんてったって、美術史上もっとも素行の悪い画家でっせ。ka1ネームは編集部が考えてくれますが、この出だし、なかなかぴったり。勝小吉というのは勝海舟のオヤジで、自伝『夢酔独言』に書かれる勝小吉の人生もまたメチャクチャで痛快です。『夢酔独言』私は二回読みました。ka2ka3ka4ka5ka7ka6ま、カラヴァッジョ人生双六の全貌は「芸術新潮」で見ておくんなさい。国立西洋美術館では15年振りのカラヴァッジョの大展覧会も開催されているようです。ka8ka9同特集ではこういう、にぎやかしのカットも描いてます。

それと「芸術新潮」ではアートの語りべ、アートテラーのとに〜氏(元吉本芸人の好青年)といっしょにやっているマンガ展評「ちくちく美術部」も連載中。今月号で連載も11回目。名前のとおり、ちくちくするのが仕事なのです。内容とは関係ないけど、とに〜部長といのっち部員のボーイズラブなコマを入れてみました。描いていて気色悪かったです。chi

明治の超絶技巧!!

発売中の美術手帖3月号は「超絶技巧!!宮川香山と明治工芸篇」

〈2000年代以降、再評価とともに注目が高まる「明治工芸」。 それは、幕末から明治へという大きな時代の変化のなか、 職人たちが試行錯誤を重ねて生みだしたものだった。 金工、漆工、七宝、陶磁器などさまざまな分野で 空前絶後の写実性や細密さを誇る表現が花開き、海外で人気を獲得。 近代化を目指す日本の殖産興業を担った。 今年没後100年をむかえる陶芸家・宮川香山をはじめ、 明治の職人による超絶技巧は、今なお見る者を惹きつける。 時代背景や人物像を明らかにしながら、 明治工芸に宿る芸術の力に迫りたい。〉

……と美術手帖のサイトに書いてあります。興味のある方は是非、手にとって超絶技巧の作品に驚愕していただきたい。IMG_1426IMG_1427私は宮川香山の人生双六を描いています。宮川香山は今、サントリー美術館で没後100年を記念した展覧会をやっています。猫かわいいよ。

サントリー美術館/宮川香山

さらに、明治の超絶技巧の作家16人を必殺仕事人風に紹介するページも担当しています。このアイデア、なかなかオモシロイ。雑誌ならではの楽しい切り口で、超絶技巧工芸への入口にもなっている。12715922_927813747305925_6555247136151269660_oIMG_1429こうやって、仕事人とその作品が一見開きに載っています。

ざっと、私の描いた仕事人だけ紹介しましょう。その1左、濤川惣助 右、並河靖之

その2左、海野勝珉 右、正阿弥勝義その3左、川之邊一朝 右、鈴木長吉その4左、赤塚自得 右、白山松哉

その5左、安藤緑山 右、柴田是真その6左、石川光明 右、旭玉山その7左、錦光山宗兵衛 右、高村光雲 その8左、安本亀八と松本喜三郎 右、飯田新七

彼らがどういう必殺技を持っているか、それを知るには美術手帖を買うしかない!

ところで……私の手持ちの1978年筑摩書房刊行「明治大正図誌 第4巻 横浜・神戸」には宮川香山、旭玉山の作品が見開きで紹介されています。そしてそのページのタイトルは「スーヴェニール・アート」となっている。つまり「おみやげ」ですね。解説文では「……(前略)香山たち細密な技巧にたよる輸出品工芸作家の作品は奇をてらったもので、技術偏重という明治工芸界の傾向を代表している」という具合いに片付けられています。

四半世紀ほど前までは、明治工芸はこのような扱いしかうけていなかったわけですが、今は違います。こうやって美術雑誌で特集され、美術館で展覧会が開かれるまでになりました。美術史家の仕事は、美術史を書き換えることであります。歴史は書き換えられることを前提としてあるのです。

美術史家、学芸員の先生には、ぜひ次に、明治大正昭和の挿絵やイラストレーションをとりあげて、日本美術史の中に場所を作ってほしい。今はやっと、小村雪岱が人気出てきたところ。私の大好きな石井鶴三や茂田井武もまだまだ評価が足らない。なんつったって、日本国民のたくさんの人が普通に楽しんでいた絵じゃないですか。そこらあたりが、きっちり評価されると、ワテら、しがないイラストレーターにもおまけでラッキーなことがおこりそうな気がします、他力本願、他力本願。

 

荒川土手/下流老人

散歩の達人の3月号は「千住特集」。私は荒川の土手に行って人編観察をしてくるように頼まれました。

荒川土手といえば、そう、あの『3年B組金八先生』のオープニングでおなじみの土手です。たぶん日本で一番有名な土手といってもいいでしょう。2番目に有名な土手の名前がすぐに思い浮かんでこないので、だんとつ一番ですね。

そして金八先生のオープニングでは美しい人間のふれあいが次々にあらわれます。「まぁ、そこはドラマだから……」なんて言わないで、一度は自分の眼で見に行こうではありませんか。

ぼくは東京に暮らして四半世紀が過ぎていますが、荒川土手には、はじめて行きました。いんとろIMG_1416この画像でははっきり文字は読めないでしょう。これは本屋に行って買うかしかない!

ちなみに、取材のときに、土手のすぐ近くに「東京未来大学」という名前の大学があったのですが、そこは金八の舞台「桜中学」だったところなのでした。ま、私が知らなかっただけで、けっこう有名な話かも。下流老人1つづきまして雑誌、Wedge2月号の特集「下流老人のウソ」に描いたポンチ絵です。タンス預金にしがみつく人、下流老人特集を読んで不安になる人。「下流老人に老後破綻。老後リスク本はシニアの心に刺さり、不安が経済を冷やしている。ブームは政策を動かし、3万円の給付金も決まったが、実はこの老後の貧困、統計分析としては不正解だ」とリードにあったので、まるうつし。下流老人2シニアになっても働いたほうがいいらしいっすよ。自分のためにも、みんなのためにも。……どんなことが書いてあったか忘れましたが、この絵はそういう意図で描いた覚えがあります。下流老人3今の日本はこういう状態ですからね。貧困化が進んでいるのは高齢者よりも、むしろ現役世代。台車から降りて、「よっしゃ、ワシも手伝うぞ」と鉢巻きしめて後ろから押しているおじさんいますよね。このおじさん、カッコいいです。

文庫本二冊

発売ホヤホヤ中の文庫のカバー仕事より。

ひとつ目は新潮文庫。久坂部羊さんが自分の青春時代を書いた『ブラック・ジャックは遠かった 阪大医学生ふらふら青春記』のカバー。ぶらっくじゃっく大阪大学医学部は手塚治虫の母校であり、山﨑豊子の「白い巨塔」の舞台となったところである。帯には〈そこはアホな医学生の「青い巨塔」だった〉と書いてある。カバーデザインは新潮社装幀室の二宮由希子さん。

医学生の話なので、タイトルが包帯の上にのっている。この即物的アイデアもうまく効いている。こういう合成はパソコンを使えば簡単なことかもしれないが、二宮さんはわたしの絵をプリントアウトして、厚紙に貼り、実際に包帯を巻いて、スキャンしたそうである。だから、包帯から絵の色が透けている。アナログ手法で合成したから、なんとなく可愛さがでている、と思う。包帯絵の内容に関しては、打合わせの段階でほぼ用意されていたので、それに従って描いた。つまり、たいして頭を使わなくて済んだ。

お次ぎにお見せするのは、光文社文庫、井上ひさしさんの『戯作者銘々伝』。以前はちくま文庫から出ていたのが、光文社から装いも新たに出ました。カバーデザインは高林昭太さん。

げさくしゃめいめいでんこの本には12人の戯作者の話が入っている。鼻山人、式亭三馬、恋川春町、山東京伝……。山東京伝は知っている。他には名前を聞いたことがある人が数名で、あとはぜんぜん知らなかった。わたしは平成の戯作者になろうとする身なのに、この程度の教養しかないことを恥じます。

いくつかアイデアを考えて、最終的に4つにまで絞ってお見せしたところ、この形が選ばれた。元ネタは山東京伝が案のこの絵。sk1107c1円の中の人物を井上ひさしさんに変えただけなので、結果的にこっちもたいして頭を使っていない……。井上ひさしさんといえば、似顔絵描きからすると、顔の全部に特徴がある、非常に描きやすい顔だけど、もっとも特徴のある下半分は隠れてしまう。でも顔の上に著者名が入っているので大丈夫だぁ。

パノラマ世界史750年

大月書店から発売中「輪切りで見える!パノラマ世界史 第2巻」(監修:羽田正先生、文:内田力先生)にたくさん絵を描いております。このシリーズは全部で5巻あります。わたしが担当した第2巻は「さまざまな世界像」と題され、750年〜1350年の世界史をあつかっています。たーっくさん絵を描いたので、このブログもしばらくこのネタでひっぱります。せかいしかばー今週アップするのは750年頃の世界。この時代はキリスト教や、イスラーム教、仏教、今日まで続く宗教が、基本的な教えや信仰の内容を整えた時代です。本書の特徴は時代を「しくみ」と「くらし」の二つの視点から輪切りにして見せる!ところでございます。750shikumi750年ごろの世界、社会のしくみ編。

絵と文章のタイトルだけ載せます。

以下にアップするそれぞれの絵には、内田力先生のテキストがついています。当時の人々への想像をかき立ててくれます。これが本書のメイン。わたしの絵がその手助けになればよいのですが。

というわけで、絵だけ見ても、なんのこっちゃわからないので、本を注文しよう!こんな素敵な本があったら、わたしももっと勉強したことでしょう。

750年しくみ1-1ひとつの方角に祈る750年しくみ1-2教皇とのむすびつき750年しくみ2-1神殿で祈る750年しくみ2-2インドの思想家750年しくみ3-1石造りの物語絵巻

750年しくみ3-2世の中が落ち着きますように

つづきまして、750年ごろの世界、人びとのくらし編。750kurashi750年くらし1-1商売しやすい新首都750年くらし1-2商品と流行は西から来る750年くらし③差し替え盗んだ技術でもうけだす750年くらし④差し替え塩は絶対必需品750年くらし⑤差し替えこの地の未来をだれも知らない750年くらし6奈良の都にあつまる名産品

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映画西口東口

今週のブログはちょっと前に出た本、芝山幹郎さんの「映画西口東口」の紹介。いいタイトルですね。

『私は、駅と同様、映画にも西口と東口があるのではないかと思っている。にぎやかで、いささか猥雑な西口には、旨い食べ物屋が集まっている。ちょっと気むずかしいが、おしゃれで趣味のよい東口には、静かに飲みたい酒場が並んでいる。』と前書きにあります。

先週だったか、「週刊文春」を立ち読みしていたら小林信彦さんのコラムでこの本が絶賛されておりました。IMG_1295ブックデザインは日下潤一さん+赤波江春奈さん、タイトルレタリングは岡澤慶秀さん。岡澤さんのタイトルが相変わらず素晴らしい。わたしのイラストなんて、なくてもいいくらいですけどね。IMG_1296表4はこのような感じ。ジャック・タチの映画のポスターなんかを描いているピエール・エテックスという絵描きさんがおります。この人は画家で俳優で映画監督もする多才な方らしい。芝山さんと日下さんの打合わせで、ピエール・エテックスの絵のような、洒落た線画の絵でいこう、ということになって、ご指名を受けましたが、これが……むつかしい。べつにピエール・エテックスの真似はしなくてもいいのですが、雰囲気を出すのがね。画家で俳優で映画監督もするような人がサラサラッと描いた絵の雰囲気を出すには、自分自信も画家で俳優で映画監督でにならないと描けないのではないかと思いました。わたしの絵にはエスプリが足りません。お手上げ。芝山さん下書きをしてから描く、というタイプの絵でもないので、何十パターンも描いた中から5つに絞り、日下さんに渡しました。IMG_1298この本にはパラパラ漫画がついていて、芝山さんらしき人が歩いています。カバーの絵はぶっつけ本番で描ける絵ですが、こっちは動きをなめらかにするために下書きはもちろん、アニメーターのような作業も必要。パラパラ漫画なんて子どもの頃によく描いたから、楽勝とおもっていたけど、これまた大変。まぁ、自分が慣れていないせいでしょうね。こんなの基本的な動作だから。コートパラパラ用カバンパラパラ用そういうわけで、本屋さんで見かけたらどうぞよろしくおねがいします。