伊野孝行のブログ

X’mas/カレンダー/芝浜

突然電話がかかってきて驚いた。電話は突然かかるものなので、驚いたのはそれではなくて、外人さんが「ワタシ、ニホンゴ、ウマクナイケド、ガンバッテ、シャベリマス」といきなり話しはじめたからだ。しかし、用件はわかった。彼の会社は、東京にあり、海外にむけて教材や商品を作ったり、販売したり、紹介したりしているところのようだ。クリスマスカードを依頼してくださった。日本人がクリスマスにケンタッキーを食べることが外国人にとってはものすごく奇異に感じるようで、それを浮世絵のパロディで描いて欲しいということだった。わたしはクリスマスにケンタは食べないが、そういう人もいるのだろう。正月に吉牛で牛丼を食べるとかそういう感じのことなのだろうか。おもしろいので引き受けた。5000人の海外のお客さんに配ったということだから、笑ってくれてるといいのだが。鈴木春信の浮世絵のもじりで描いた。よくみると線がグニャグニャ。さて、今年はカレンダーも描いた。おなじみ「日本薬師堂」のカレンダーで、江戸時代からタイムスリップした老夫婦が現代の日本を旅するという趣向。ここには表紙だけアップしますが、TISの私のページに続きをアップしてありますので、是非、爺様、婆様と旅をなさってください。ほれほれ!どうじゃ、そこのお若いの、旅は道連れ、ごいっしょなされ。カレンダーを全部見る(click!)

さて、もう年の瀬も押し詰まってまいりました。そういうときにぴったりなのは落語の「芝浜」。主婦の友社「四季をあじわう心が育つおはなし」より。有名な噺なので説明は略。「いや、よしとこう、また夢になるといけねぇ。」…というわけで、はい、本年もありがとうございました!みなさん、よいお年を!

実録20代の部屋

CITYBOYのための雑誌「POPEYE」で「あの人が20代の頃に住んでいた部屋」を描きました。おしゃれな雑誌だからといって必ずしもおしゃれな絵が求められるわけではなく、むしろおしゃれじゃない方がいいのかも。なにも僕におしゃれを求めてないだろうし。世界的な画家、奈良美智さんは林の中に大家さんが自分で建てた小屋みたいなところに住んでいた。家賃1万円、近所の子供に覗かれたり…。東洋一のサウンドマシーン、クレイジーケンバンドの横山剣さんは運河のみえる横浜のマンション。お隣さんは東南アジアからの出稼ぎのお兄さん。スパイシーな音楽とともに手料理も御馳走してくれたんだって。音楽評論家、ブロードキャスターのピーターバラカンさん。初詣にでかけるとき階段ですべって転んで結局寝正月。それにしても似顔絵似ていない。だって20代の頃だし、いいや、と思って。ミュージシャンで俳優で昔はエロ劇画も描いていた田口トモロヲさん。とにかく「同棲」にあこがれていた。ユナイテッドアローズ顧問の栗野裕文さん。20代どころか50代初頭まで暮らした部屋と愛用のちゃぶだい。「モテキ」の監督大根仁さん。働きまくって稼ぎまくって遊びまくって祐天寺の20万の家賃の家に住んでたがある日カミナリが落ちて何かが終わった。ランドスケーププロダクツ代表の中原慎一郎さん。埼玉県の川口市で友達とシェアハウス。教育実習の教え子も遊びにきました。というわけでコンビニや書店で「POPEYE」をよろしく!ご本人たちの直筆の当時の「間取り」も載っていて、甘酸っぱい思い出が切々と語られています。

フィレンツェにて

「日経おとなのOFF」の「2013年絶対見逃せない美術展」という特集でルネサンスの三巨人を描きました。レオナルド、ミケランジェロ、ラファエロの三人はフィレンツェですくなくとも2回、勢揃いしていたようだ。時は1503年フィレンツェの街にそろい踏みする三人を描いたのが下の絵です。クリックすると画面いっぱいに広がるであろう!レオナルド・ダ・ヴィンチ、日本語に訳すと「ヴィンチ村のレオナルド」は五十を過ぎた円熟期でした。ミケランジェロ・プオナローティはレオナルドより23歳年下。気鋭の彫刻家として名声をとどろかせておりました。ラファエロ・サンツィオはミケランジェロより8歳年下。一旗揚げようと地方から出てきた青年でした。ラファエロは37歳で死んでしまいますが、その作品は、That’s西洋美術、西洋美術の王様、とたたえられました。昔、欧米ではラファエロを何枚持っているかで国力を示していたこともあるんだってさ!

【おまけ情報】今年の5月に「画家の肖像Ⅱ」でお世話になった「タンバリンギャラリー」で恒例の「FANTASTIC DAYS2012」に参加しています。タンバリンに絵を描くアレです。(期日は今日12/11〜23まで)僕はこういうのにしました。どの人のも1万円で売ってるらしいです。どれくらいで描いたかって?5分くらいかな…。

日本の画家第1巻

汐文社から出版された「教科書に出てくる日本の画家」の第1巻で近世の日本の画家の似顔絵を描きました。全部で3巻に別れてます。2巻目以降は只今制作中。主に学校や図書館で購入されるようだ。ところで、近代以前は日本の画家は自画像なんかめったに描かないので資料自体がない場合が多い。なので「本書内の似顔絵は、実存する自画像や当時の生活の様子を示す資料にもとづいて描いた架空のものです。」ということわり書きがついている。生徒諸君!そこんとこィヨロシク!資料がないと言いつつ「雪舟」は自画像がある。「雪村」も自画像がある。この本のなかでは一番時代が古い二人には自画像があり、その後の画家はほとんど自画像がない。なぜだろう?「長谷川等伯」は銅像があったが、もちろんこれは想像の人物像だろう。しかし、一応その銅像を真似しておいた。「狩野永徳」は資料なし。勝手な想像で描きました。後ろの金箔でごまかす。「俵屋宗達」も完全な想像。絵から描き手をイメージして実際に会うと、絵とはかけはなれた風貌であることが、自分の経験からしてもよくある。僕は「もっと年配の人かと思いました。以外にお若いんですね。」と言われることが多い。複雑。「尾形光琳」は自画像はないけど誰かが描いた肖像画があったので、それを参考に。「伊藤若冲」も自画像はないのだが、自分で描いててこんな人ではないような気がする。しかし、こんな人なのかも知れない…。「酒井抱一」は誰かの描いた肖像画が残っていたので、参考にしたが、たぶんこんな人だろうと思わせる何かがある。自信をもって描いた。知らんけど。「喜多川歌麿」は一応肖像画があったが、「え〜?これがUTAMARO?」と思ってしまった。繊細な描線からは想像出来ないヒキガエルみたいな顔だったのだ。「東州斎写楽」なんてナゾの人物なんだからもちろん資料はない。ナゾだからこのように顔もナゾってことで。「歌川国貞」は肖像画あり。しかし、浮世絵的デフォルメがほどこされてるので似顔絵として本人に似てるかどうかはわからない。いまさらそんなことどうでもいいか。「葛飾北斎」は自画像あり。ここに来てやっと自画像ありの人があらわれた。最後は「歌川広重」肖像画はあった。坊主が三人続いた。…生徒諸君、日本の画家はこんな顔をしていなかったかもしれないので、もういちど言っておくがこれは「架空」なのだ。でも日本美術に興味をもってくれれば先生はうれしいぞ!

 

 

すごい句集!俳諧曾我

俳人の高山れおなさんの第三句集「俳諧曾我」がすごい!8分冊で箱入りの句集というアイデアもさることながら、そのバリエーションのおもしろさに、一度手に取ると、なかなか手放せなくなり、俳句を読んだり、造本をめでたりして、一種の「巻を置くあたわず」状態になる。句集のお手伝いをさせていただいて、すごく嬉しい。私は4分冊目の「三百句拾遺」という句集の表紙と見返しを描きました。「三百句拾遺」表1


表1と表4クリックするとでっかくなるよ!

見返し

「三百句拾遺」は東アジア最古の詩集「詩経」の詩を俳句化するという試みである。…といっても「詩経」のことなどまるで知らない無教養な私に絵が描けるだろうかと心配したが、高山さんの用意してくれた紀元前4世紀の中国の漆絵を参考になんとな〜く描いてみました…。「三百句拾遺」をひらくと

水あれば水かがやいて神の旅

迷宮に誰か葛煮る叫びつつ

摘草や晴れて四方の針の山

白桃を剥けば燦めく修羅よりも

好(よ)き仇(とも)を枯野の岩に彫り出さむ

悲の廚(くりや)踊るおおばこの炒め物

といった句が登場し、「古俳諧をはじめとする古典への造詣と現代的奇想とを組み合わせたバロック的作風」がその後も展開されていくのであった。これはウィキペディアに載っていた高山さんの句の特長を書いた文章から引用したのですが、俳句素人の私も、そう、そうそんなカンジですよね!と思いました。一体どのように句を作られのでしょうか。すごいです。この句集は一般には流通していないので、欲しい方は高山さんに注文しないと買えません。(おもとめの方は高山さんにメールを!値段は3000円です。leonardohaiku@gmail.com)せっかくのこの類い稀なる句集のビジュアル、当ブログでお見せしてもいいかしら。まずは、箱です。タイトルレタリングは岡澤慶秀さん。箱の中には8冊!

「俳諧曾我」絵は浅井忠「侯爵領」絵はギュスターブ・ドレ

「フィレンツェにて」絵はラファエロ

「鶏助集Ⅰ」絵は日下潤一さん。この本のブックデザインも担当されてます。「鶏助集Ⅱ」絵はチカツタケオさん

「パイク・レッスン」絵は浅妻建司さん

「目録+開題」写真は筒口直弘さん

来年の1月に「スタジオ・イワト」で日下潤一さんの個展があるそうなんで、在庫があったらそこでも買うことも出来るかも?手に取る機会があればぜひ!

新刊洪水に漂う難破船

「週刊金曜日」で月イチ連載の元週刊現代編集長、元木昌彦さんの「ギャンブル親父の業界地獄耳」最近は出版不況についてでした。元木さんが各業界のトップに直接取材して書かれる記事は、この業界で生きる自分にとっても他人事ではありません。「今の出版界の末期的症状から脱するにためには、再販委託制の改革が必要なことはいうまでもない。それなのにいまだに版元、取次、書店、三者が腹をわって話し合う「場」がないことに呆れ果てる。」と憤慨しておられます。本が売れないのに年間8万点といわれる新刊が出ています。新刊洪水の中、三者の意見はまとまらないの図。新刊を出し続けることで版元は生き残れるカラクリがあるわけだが、これは自転車操業の悪循環でしかない。しかし、そのおかげでなんとか食いつないでいる人々もいる。イラストレーターも…。ほんとうにやりたい人だけが本や雑誌をつくるような状況になってほしい。そうなる前に社員はリストラ、フリーランスは廃業の憂き目にあうかもしれないけど。ずぶずぶ沈むのを待つしかないのであろうか…?山本夏彦翁!