山下裕二先生監修「一夜漬け日本美術史」が美術出版社から発売されました。この本はもともと「美術手帖」の特集だったのですが、この度、スケールアップして単行本になりました。で、私はカバー、扉、カット、年表…と絵を描きまくってますので、どうぞよろしくお願いします。そして山下先生の粋なはからいで、「伊野コラム」なるものまで設けていただき、4人の画家の肖像+自画像まで載っけていただいてしまったという、きっと日本美術初心者がこの本を手に取れば、トラウマ的に私が刷り込まれることは逃れられない本です。
この表紙を本屋で見かけたら手に取ってくださいまし。



以上、各章の扉でした。まえがきの中から山下先生の言葉を少し引用しますと
「知識が邪魔をしている人たちといえば、展覧会に行くととくに多いウンチクおやじ。僕はそういうおやじに遭遇すると、となりで聞き耳をたてたりしていますが、苦笑することがしばしばなんですね。そうじゃなくて、まず見て、つまり食べてから、知識を加えていけば、その知識は邪魔にはならない。」
美術館でうんちくを語る人は気をつけてください。…つづきまして
「美術館ガイドのページも、やはり「日曜美術館」的じゃない、あるいは、熟年女性誌的ではないものにしました(笑)。東京国立博物館に行って、埴輪の前で顔真似してるっていうね、そういう見方ですから。こうやってさ、勝手に突っ込み入れながら見ると楽しいのね。とくに常設の展覧会は。」本格美術館ガイドはクォリティーの高いハズレのないガイドになってます。ちなみに山下先生は年間365以上の展覧会を見ているという方です。ツッコミを入れながら見るというのは、つまりこういうことですね。
「ゼロからはじめる超解説書!」とあるように、まずは能書きなしでいきなりガブリ!と日本美術を食べるための本です。…と書くと、初心者用に思われます が、実はこの本の第4章「一夜漬けでは歯が立たない?日本美術史特別講座」という部分こそ大事なところであります。山下先生と板倉聖哲先生との対談で日本 美術と大陸との関係を語っておられます。私はこの対談に同席しましたが、くだけた調子で語られる話がとても興味深く、おもしろかったです。「日本の美術は、いうまでもなく大陸の美術と切っても切れない関係にあるわけで、その中国のスタイルを念頭に置いて日本の美術を見ることは、次なるステップに進むうえで必須のことなんです。もし、もう自分はある程度日本美術に対して知識がある、展覧会にもたくさん行っているという人なら、まずは、ここを読んでもらってもいいかもしれない。『一夜漬け日本美術史』と言っておきながら、最後は一夜漬けじゃ全然歯が立たない、そういうことを伝える構成になっています。」
はい、一夜漬けでもいいから日本美術の世界に飛び込もう、そして大好きな絵をたくさんみつけたらお勉強もするともっとおもしろくなるよ〜、というわけで前編は終わり、来週は恥ずかしながら「伊野コラム」について。
発売ホヤホヤの「芸術新潮」3月号ジャクソン・ポロック特集で仕事しました。是非本屋で見て下さい。そして買ってくれると新潮社ともども喜びます。
44歳で自動車事故で亡くなったポロックも生きていれば今年で百歳。ポロック…もちろん知っていますが、「一発屋」くらいに思っている人はいませんか?…ハイ、それは私です。一発屋は少々言い過ぎだけど。しかし、ポロックは近代美術と現代美術の分水嶺であり、絵画革命を成し遂げた偉大な大画家のようです。165億円とか200億円とかの値段がつくのも歴史的価値があるからでしょう。(話はそれるけど、うんびゃく億円と聞くと、その絵より現金を展示した方が観客はビックリする、と毎回思ってしまう)話は戻って、アメリカでは悲劇の3大ヒーローとしてジェームス・ディーンとチャーリー・パーカーと並んで山に彫られているのです!
…というのはもちろん嘘ですが、そういう扱いを受けているようです。ちなみにジェームス・ディーンは24歳、チャーリー・パーカーは34歳、ポロックは44歳で亡くなってます。それも1955〜56年にかけて。
さて、ポロックはアクションペインティングなのか、そうでないのか。
…と本人が言ったかどうかはわかりませんが、さてどっちでしょう?答えは「芸術新潮」で見てね。
ポロックは伝説のガンマン、バッファロー・ビルの町で生まれました。果てなき荒野の地平線を見て育ったことが後の絵画に影響を与えているとかいないとか。ネイティブアメリカンのアートは一時期引用していた時代もあります。ポロックさんもいろいろ試行錯誤しているところが見れておもしろいです。
試行錯誤しながらも、ピカソという大きな壁が越えられず、飲まなきゃやってられない?ポロックはアル中でした。この時代の画家にとってピカソというのは本当に大きな壁だったようです。しかし、誰も越えられなかった近代美術のその壁を、ついにポロックは越えることが出来たのです!パチ、パチ、パチ!ポロックは5つの革命でそれを成し遂げました。5つの革命とはなんでしょう?ハイ、それは「芸術新潮」を買って読んでね♡革命後そこに現れたのは「新しい絵画空間」でした。
弁当箱にたとえるならダリは従来の弁当箱にヘンなおかずをつめました。ポロックは弁当箱自体を変えてしまったのであります。
ここで技法説明。左、ポタッと落とすのが「ドリッピング」。右、とろーり垂らすのが「ポーリング」です。プーチン大統領じゃないですよ。ポロックの特集ですからね。
新しい絵画を手に入れたポロックはよりいっそう画業に精を出しました。しかしやがて行き詰まったのか、やめていた酒にも手を出すようになり、しまいに絵が描けない病になってしまいます。…やはりあの5大革命というのは、言い換えれば絵画のおいしい部分を全部捨てる革命でもあったな…と私などは思ってしまうのです。でも、それに引き換えに打倒ピカソを果たし、美術史のページをめくることも出来たわけですが。そのことは良かったとしましょう。ポロックが開拓した「現代美術」というのは、楽しんで絵を描くことに重きを置いていない、描く側の人間にとっては少しやっかいな美術です。誌面ではポロック以降の現代美術の相関図というのも描きました。はい「芸術新潮」を買って国立近代美術館にポロック展を見に行きましょう!
芸術新潮2月号の特集は「春画ワールドカップ」と題して浮世絵vs世界のエロスが繰り広げられています。さてエロスのページのその後で今月も熱く真面目に美術界について考える藤田一人さんの「わたし一人の美術時評」、今回は「いまこそ、官製美術館の本質を問う」でした。そもそも国公立の美術館のあり方はどうあるべきなのか?くわしくは芸術新潮でお読みいただくとして、コラムの冒頭で橋下徹市長が大阪市立近代美術館の建設計画を白紙に戻したことに触れてます。「こんな金があったら小学校にクーラーを、中学生に給食を」と府知事時代から建設には否定的だったみたいです。(画像はクリックすると鮮明になります。久々に言ってみた)
橋下市長がそもそも政界に打って出る後押しをした人物としてやしきたかじんさんがいます。「鈴虫の声を持つゴキブリ」と言われるたかじんの歌を聴いて感動し、思わず決断をくだしてしまった…そんな場面を勝手に想像して描きました。そう、この橋下市長の感動のように芸術は人間には必ず必要なものなのです。人間は芸術の恩恵なしには生きられないのです。そのところは忘れてもらっては困りますよ…ということで。(たかじんさん初期の食道ガンで休養とのニュース。元気に復活されることを願います。)
他にはこんなアイデアがありました。
横山ノックのタコ踊り像です(チト古い?)。
真実を語る浮浪者(説明的すぎ?)。
ベン・シャーンの特集の「芸術新潮」今月の藤田一人さん「わたし一人の美術時評」は美術市場の不況について。意外にな事に百貨店業界では美術や宝飾品が2011年、6月から9月にかけて4ヶ月連続売り上げがプラスだそうだ。不況下の美術品売買は活発になる、とは従来から言われていたことらしい。事実欧米のオークションではウォーホルの作品が10億円を越える値段で落差された。しかしそんな話題がさっぱりないのが日本の美術市場。
「美術品の価格が、ものとしての実質ではなく、一種の社会的信用度であるがゆえに、美術商は組合組織を作り、作品の流通と価格の安定を図って来た。」そういう市場システムが今は崩壊した。我がイラストレーター業界にはそういう市場システムはないが、やはり同じ絵を描いている者としてなかなかに興味深いお話が載っている。是非、芸術新潮を買って読もう!…というわけで私が描いたのはコレです。
若手画家が絵を描く前に売値と原価を考えて電卓をはじいております。時給に計算しなおすと、こんなことならバイトした方がいいよ!っと思うことは多々あるでしょうが、「お金は後からついて来る」と思いなおして、損得勘定を捨てて臨まなければ道は開けません。自己投資して油田を掘り当てましょう。自分が自分のパトロンだと思えばいいのです。…と私も自分に言い聞かせております。その他のアイデアはこんなのでした。
コラムにもでてきたウォーホル。ラフなので似顔絵にてませんが。2ドル札をシルクで刷った、あのアンディは今や美術市場では決して評価の下がらない安定した価値です。
絵の価値なんてたしかになんだかわからんもんですね。ちなみに1月号の「美術手帖」は世界のアートマーケット特集でなかなかおもしろかったです。