「芸術新潮」で連載中の藤田一人さんの「わたし一人の美術時評」先月は「役に立つ芸術」というテーマでした。社会における芸術の意味を問いただしているとてもおもしろい内容でした。最近は現代美術が全国各地の文化的地域振興のアイテムになっています。文化庁が後押ししている漫画やアニメの海外発信もそう。しかし芸術はそんなもんだっけ?デュシャンやウォーホールやダミアン・ハーストは何故あんな作品を作ったのか?コラムには「”役に立つ”ことと”必要である”ことは微妙に違う。実利性と必然性の違いと言ったらいいだろうか。少なくとも近代以降、芸術なるものの価値は後者に重きが置かれてきたはずだが。」と書かれてありました。このコラムを読んで、前に雑誌で森村泰昌さんが紹介していた赤瀬川原平さんの文章「この間友人と話をしていて、かつて芸術といわれていたものがいまはアートといわれているが、このアートの内実はじつはデザインなのだという結論になり、自分自身納得した」というのを思い出しました。
で、芸術家ではないけどイラストレーターの私はこのコラムになんとか挿絵をつけなければいけません。こういう重みのあるテーマはこちらもその本質にせまりたいところでしたが、即物的に役に立つというところに逃げてしまいました。「ジャコメッティの帽子掛け」はお役に立ちますでしょうか。このコラムでは題字も担当しております。

「小説すばる」で連載中の山本幸久さんの初の時代小説「大江戸あにまる」の挿絵です。今回の狂言回しの動物は羊。この小説の主人公は、武士にもかかわらず、剣術が弱く、気が弱く、およそ武士らしいところがまるでないのがとてもいいのです。3ヶ月に一度の掲載で、今月は新しい話の挿絵を描きます。今度は「ワニ」が出てくるそうで、山本さんの原稿を楽しみに待っているところです。


ブーム。それに乗らない手はない。しかし、みうらじゅんの「ゆるキャラ」をとってみても最初の発端と、それがブームになって末端にまでひろがった終着点では、本質がかなり変わってしまっている。ブームというのはそういうものであり、坂本龍馬を煎餅や饅頭にして何が意味があるのかわからないが、ともかくそれがブームだ。その坂本龍馬ブームが私のところにもやって来た。しかもこれは煎餅や饅頭ではない。ちゃんとした立派な小説である。
坂本龍馬のブーツをはいた2枚の写真。一枚はブーツが綺麗で、もう一枚はブーツが汚れているとか。そこに着目した作者の梶よう子さんが想像力を駆使してお書きになった読み切り短編小説である。掲載は「小説現代」でございます。
報告がおそくなりましたが「芸術新潮」にて9月号から、藤田一人さんのコラムに挿絵をつけています。藤田一人さんのお名前は「一人」と書いて「かずひと」と読みます。そんなわけで「わたし一人の美術時評」というタイトルになってます。この場合はふつうに「ひとり」と読んでくださいね。第一回目の内容は「現代若手美術家考」という内容でした。最近の若手作家に見られる傾向と、とりまく状況について書かれてありました。私は商業美術家ですが、それ以前に芸術家である気持ちを忘れてしまってはいい仕事もできません。芸術家にとって「若さ」は最も重要な価値の一つです。藤田さんのコラムは今売られてるので2回目。もう3回目の原稿も読んでイラストレーションを描き終わりましたが、時評であっても普遍的なお話が展開されていてとてもおもしろいです。力強い文章はこの夏の酷暑にもかかわらずクーラーなしの部屋で書かれたとか。芸術家にとって若さとは?…私の描いた挿絵はこんなものでした。文中にはこんなシーンはありませんけど。ヴィンちゃんとポール君の仲良し?コンビです。(ゴッホとゴーギャンです。念のため)
時期を違えて始まった連載が、時期を同じくして終わりました。寂しさに拍車をかけるような。でももう、ひと月以上前の話。二人展の宣伝ばかりしていて後回しになってました。
宇江佐真里さんの『通りゃんせ』は角川の「野生時代」の連載でした。主人公は現代から来た青年で、自分の着ていた迷彩服を取り出して見つめています。
新野剛志さんの『中野トリップスター』は新潮社の「波」で連載してました。中野にある旅行代理店を舞台に展開するお話です。お店の中を覗き込むのは主人公の山根です。山根はいいヤクザです。
タイトルが「天才伝説」ですが、僕のことではありません。それはまた後ほど。
とりあえず新潮社のPR誌「波」で連載中の「トリップスター」の挿絵でも載せておきます。こういうタッチだと、もっと絵を単純化したくなるんですけど、具体的な描写も小説の面白味なので毎回どこまで描くか悩んでます。


「トリップスター」はTISのサイトにもアップしてありますので良かったら見て下さい。こちらです!
同じくTISのサイトで、僕が今までずっと見たかったものが見られました。それは峰岸達さんによる「横山やすし天才伝説」の連載時の挿絵です。小林信彦「横山やすし天才伝説」は僕の愛してやまない本。人間くさすぎる横山やすしを、決してウェットにならず、時にドライすぎる観察眼で描いた傑作評伝です。単行本になってからちゃんと読んだので、連載の時の挿絵は見てないものが多かったのです。その念願がやっとかないました。そして素晴らしい!大好きです!この仕事は峰岸達さん以外に出来る人はいない。こんな巡り合わせが、僕のイラストレーター人生にも訪れるまでがんばりたい、と決意をかたくしました。
本の内容は頭に入ってましたが、挿絵を順番に見て行くと、本の感動とはまたちがった感動がありました。本を読んだことのない人でも胸にくるものがあるでしょう。やっさんの物語はちょっと悲しいけど、最後の挿絵がまさにぴったり。「横山やすし天才伝説」全挿絵52点