伊野孝行のブログ

尾形乾山/美術手帳

今年の秋に上野の博物館で開かれた「大琳派展」に合わせた企画が「美術手帳」であった。僕は尾形乾山について執筆する依頼を受けた。他のメンバーは 本阿弥光悦 by 山口晃さん、 俵屋宗達by しりあがり寿さん、 尾形光琳by 笠井あゆみさん、 酒井抱一 by ほしよりこさん、鈴木其一 by 山村浩二さんという顔ぶれです。監修は日本美術応援団の山下裕二先生。

さあ、まずは尾形乾山について勉強しなくちゃならない。何も知らないも同然だから、書店、古書店、図書館、美術館と色々まわる。編集部にもお手伝いしてもらって、欲しい図録なども取り寄せる。「すべて、好きにしていいですよ。」と言われてるので、レイアウトを考えたり、文章は何を書くかなど、普段のイラストレーションのみの仕事ではやれないことがやれて、すごく楽しかった。乾山のことは専門家ではないので詳しく知らない。でも好きな作品がいくつもあったのでその感想を言うことにした。やはり好きになれないと書けないもんだ。僕に乾山をわりふってくれた編集部のKさんは、それもお見通しだったのだろうか。

※クリックすると大きくなります(拡大もできます)ので、文章も読めると思います。興味のある方は是非!

 

 

社長失格

光文社文庫の江上剛「社長失格」の表紙です。デザイナーの岡本健+さんから伝え聞く、担当編集者の要望はこうであった。「明るく、ポップに。だけど経済小説の重鎮である江上剛さんの重厚さも出したい…。」と。明るく、ポップと来れば軽薄であり、この要求のなかには矛盾がある。しかし、ここがプロの腕の見せ所である。人間は矛盾してるからこそ、小説も生まれるわけである。絵も矛盾を抱えた方が味わいが増すだろう。岡本さんのディレクションにも助けられて、なんとか答えられたと思う。最近気に入ってる版画でやってみた。

 

 

野生時代小説

角川書店「野生時代」に連載中の宇江佐真里さんの時代小説、「通りゃんせ」の挿絵です。「野生時代」は月刊誌だが、「通りゃんせ」は3ヶ月に1度の掲載で、つまり年に4回しか挿絵を描く機会がない。まさに忘れたころにやって来る仕事なのである。現代の青年が江戸時代にタイムスリップして展開していく話なので、いかにもな筆のタッチよりもペンのほうが合うかな、と思ってサインペンで描いてるのだが、サインペンは味が出ないので、難しいっすね。あー、難しい。でも味が出にくい画材をモノにできたら、実力がつくと思う。がんばるしかない。

 

 

裏ネタ日本史

宝島社文庫の「裏ネタ日本史」という本の表紙を描いた。「紫式部はレズだった」「銭形平次は前科者」といった歴史トリビアが満載の本である。この絵の描き方は、彩度が高いので印刷で正確に再現しにくいのだが、仕上がりはとてもきれいで、良かった。デザイナーの藤牧朝子さんや印刷会社の職人さんに感謝しなければいけない。この水彩絵の具のおつゆ描きのやり方はずいぶんやっているが、利点は濃い内容でもあっさりして見えるということだ。もしアクリル絵の具で塗り込んだら,クドすぎるだろう。「壁に耳あり、障子に目あり」の様子を描いてみた。人間の営みには、このように裏の裏があるものなのだ。なお、本文のエピソードには関係ありません。

ついでに、実際には使わなかったが版画風バージョンもあるので、お見せいたします。

 

 

愛犬とイラストレーション

リクルートの「アイケント」という、犬のグッズ通販雑誌に描いた見開きを2つお見せします。愛犬と旅行に出かける時のNGシーンを描いたのだが、自分で言うのもなんだけど、イラストレーションを使うと、ただのQ&Aもこんなにおもしろくなるんだなぁ。メディアにはもっとイラストレーションを使って欲しいと切実に思う。生活かかってるしね。

※こんなに小さくては何もわからない。お願いします!クリックしてください。

「アイケント」では、他にも「犬語辞典」といのを連載していた。犬の行動(犬語)にはどんな意味があるのか知ろう、というコーナーである。下のちっちゃいカットも描いている。当初、毎回2犬語づつだったのが、犬は語彙が少ないので連載が早く終わってしまう、ということで毎回1犬語になった。しかし、犬の語彙が尽きるを待たずして「アイケント」が休刊になってしまったのである。残念!無念!

 

 

某大新聞からのビッグな話

某大新聞から、来年の新聞小説の挿絵の依頼が来た。作家は国民的に有名な先生である。これで来年は金持ちになれるぞ!今までの苦労が報われる。やはり神様はどこかで見ていなさるのだ。カラーで掲載ということなので、このようなサンプル作品を送った。ただ、ひとつ気になることが。最終的には作家の先生が決定するらしいのだが…。

で、しばらくして結果がきた。ダメであった。カックンショックだった。他の候補の人に決まったようだ。人生なかなかうまくいかないね。