伊野孝行のブログ

商店街の古本屋

そういえば、ずいぶん前にタラジロウさん企画「日の出商店街」という展示に参加していたのだ。それぞれが商店街の店主になって好きなお店を描く、という微笑ましい企画で、僕は古本屋にした。「日の出」というのはタラさんのご実家がやっていたクリーニング屋さんの名前らしい。
タラジロウさん企画「日の出商店街」
お店の側面を展開するとこんな感じ。爺さんが勝手に休んでたりする。店主は僕で、みんなから気持ち悪いと言われた。
僕が住んでいる下高井戸にも、商店街がある。駅前には市場もある。映画館もある。そして温泉もある。実際には温泉を使った銭湯なのだが、昨日はじめて行ってみた。気持ちよかった。もちろん古本屋さんもある。そこは昔からある古本屋で老夫婦がやっている。実にいい感じの夫婦で、言葉をかわしたことは少ししかないが、いつもいい気分でお店を出る。店の中は当然、本棚に取り囲まれているのだが、それ以外にも大量に本があって、それが床に積み上げられている。それも何重にも積まれている。背表紙の見えるのは一番手前だけで、わずかに背表紙が見えるもの、まったく見えないもののほうが数は多いだろう。その山のおかげで、棚の本でも手が届かない本がある。しかし、それが不満かというと、そうでもない。店主夫婦の人柄が好きだから、それはそういうものとして受け取っている。

イソップ物語

もう、終わってしまいましたが、銀座のリクルートG8で毎年夏に開催されるTIS(東京イラストレーターズ・ソサエティ)の展覧会、今年は『イソップ物語』でした。展覧会は終わってしまいましたが、小学館から本になってますのでお金に余裕のある人は買って下さい。2310円。

どのお話が自分に割り当てられるかは、わかりません。僕にまわってきたのは「ノミと男」というお話でした。しょっちゅうノミに食われている男がいました。かゆくてたまらないものですから、ノミを捕まえると、怒ってこう言いました。「まったくおまえは、許せない奴だ。ところかまわず食いついて、おれを自分の餌にしやがる」それを聞いたノミは「仕方ないじゃありませんか。私だって生きていかなければならないんです。どうか殺さないでください。もともと大それたことなどできないのですから」と命乞いをしました。すると、男は笑って「残念だが死んでもらうよ。大それたことであろうがなかろうが、害を及ぼすものは打ち払うことが肝心なんだ」

教訓>強かろうと弱かろうと、悪人に同情する必要はない。(和泉 勇 訳)

というお話でした。この内容の話を悪人とノミがしていたら。おもろいかなーと思ってご覧のように描きました。囚人です。マヌケなコンビにしてみました。牢屋の中だからノミもいるだろうし。我ながらとんちの利いた絵なのですが、こんな気持ち悪いおじさんを描いたので売れなかったんじゃないでしょうか。たぶん。きっと。

 

 

『鍵』おわる

日本の歴史上、最も暑い2010年の夏。HBギャラリーで開催された伊野孝行・丹下京子二人展『鍵』にお越し下さった皆様ありがとうございました。HBギャラリーのエアコンがポンコツで全く効いておらず、汗を拭いながらの鑑賞どうもすいませんでした。

二人でやることに意味があり、また、二人でやらなければ意味がない展示を目指して制作してきました。すくなくとも1+1が2以上にならなければ意味がありません。グループ展も5人だったら足して5以上にならなければいけないのですが、たいてい1にするのも難しい。最初は『鍵』とは違うテーマでやろうとしていたのですが、「そんなんやって何がおもろいねーん?」という親切な方からのアドバイスもあり、それをいったん白紙にして、また考えていたとき谷崎潤一郎の『鍵』を思い出したのでした。

『鍵』を思いついた時点で「これはうまくいくかも…」という気がしました。なんとなく。夫婦がつける日記を交互に読んでいく形式。男女の視点。ヒワイな話。簡単な構成の話ですが、ページ数はかなりあり、どこの場面を描くか決めるのに2ヶ月費やしました。かなりバッサリ切ったので、後は絵でなんとか補わなければいけません。丹下さんは普段とはひと味ちがった雰囲気の、とても重苦しくて陰気な絵を描いてくれました。僕の軽い水彩に対照的になるように考えてのことです。一枚描いてはスキャンして画像メールで送り合いました。コール&レスポンスも物語の流れを作っていく上で必要です。

イラストレーターの仕事は読者様に届ける絵のエンターテーナーです。いつもの仕事は編集者やデザイナーの方といっしょにやります。それに関しては不満はないですが、自分たちでゼロからはじめたらどんなものが出来るのか試せるのが展覧会です。展覧会を見に来て下さる方は奇特な方です。絵に興味をもっている人は以外に少ないのです。展覧会のたびに呼びつけられる僕の学生時代の友達は、いつもわかったようなわからんような顔をして帰っていきますが、今回はおもしろそうにしてくれた。イラストレーターの芸を示す上でも、物語の重要性を実感しました。

イラストレーションは絵の「機能」のことで、絵の「種類」ではありません。今回は『鍵』という文芸作品をテーマにしましたが「装画」でもなく「挿絵」でもないアプローチにしました。今は本の表紙を描くことが目標みたいになっている風潮がありますが、電子書籍の到来とともに、もっとイラストレーターの才能がいろんな形で機能して欲しいと願っています。(だって、仕事、ドひまやし〜)

会場の空間もふくめて味わって欲しい展示だったので、ブログ上に絵と文章を交互にのせる形でアップしてもそんなにおもしろくないかもしれません。誰か役者さんに朗読してもらってDVDにしようかな〜。テレビ紙芝居のように。僕はいい声だとよく言われますが、滑舌が悪くて声がこもって聞き取りにくいので、声優はやめときます。

ツイッターで「展覧会百年史に残る名展」とか「今年一番」とかご祝儀もこめた暖かい声援、ありがたかったです、しかし!今年の12月に僕は「リトルモア地下」で個展『画家の肖像』をやるので、まだ「今年一番」というのは早ーい!なんつって、ただ自分にプレッシャーかけてみただけです。ごめんなさい。ああ、憂鬱だ!そう、だから『鍵』を見逃した皆様、チャンスはもう一回ある、というかまたやんのか〜、と思わないで来て下さいね♡

 

 

失敗は連続する

丹下京子さんとの二人展「鍵」開催まで2ヶ月を切った。(8/27〜9/1HBギャラリー)毎月4枚ペースで描いて来たので、そんなに焦ることはないけど、失敗が続くと「あれ?どうしちゃったんだろ?」と不安になりますね。自分の才能に対して。ひとり20枚ずつ描く予定で、もう13枚描きました。その中で4枚連続失敗というのが2回あった。なぜ失敗するのか?それも同じ失敗をなぜ繰り返すのか?分析できたら面白いと思うけど、いまいちわからない。二人展「鍵」は谷崎潤一郎の原作に極めて忠実に描いているが、絵に置き換えるときに多少ものごとをかえることもある。ここに4枚連続で失敗した絵の部分を載せます。小説にこんな猫でてくるの?とお思いのお方は是非展覧会に足を運んで下さい!(ちなみに失敗したのは猫以外の部分です。)※画像はクリックすると鮮明になります。

 

 

イノ・アーカイブ

気に入ってた絵なのに、なぜかホームページにはアップしてなかったシリーズ、第2作はこの絵だ!季節はずれの花見の絵ですが…。僕にしてはなんとなく絵本的な詩情のある作品だが、人物を細かく見ると、パンチパーマの人とか日本酒「新政」「剣菱」などが置いてある。これは初個展のときに描いたんだけど、売れた。絵を買ってもらうのも初めてで、何かうしろめたい感じがした。自分がイラストレーターだからか、絵を直接買ってもらうのは未だに気が引ける。いや、うれしいんですよ!買ってね!(クリックで大きくなります)

 

 

日本の童謡・唱歌

毎年恒例、銀座にあるリクルートG8でのTISの展示が昨日から始まりました。今年は「♪しゃぼん玉飛んだ」というタイトルで日本の童謡・唱歌を描いています。僕が選んだのは「金太郎」。以前このブログでも紹介しましたが、僕は「金太郎全敗物語」というのを描いたことがあり、それは金太郎がクマに果てしなく負け続ける物語であります。今回はこれの使い回しです。ケント紙にガッシュで描いてみました。ところでクマのお腹はこんなに白くないですね。知ってて描いてますから!

そして、今回の目玉イベントはなんとあの、小沢昭一さんがゲストに来てくださいます。「うたとお話でつづる日本の童謡」9/16(水)です。詳しくはこちらを↓「♪しゃぼん玉飛んだ」
「金太郎全敗物語」