7、8年前に描いた絵である。個展にも出したことがあるが、ホームページには掲載し忘れてたのでブログにアップしてみよう。
どういう経緯で描いたか忘れてしまった。きっと当時は時代ものばっかり描いてたことから脱却しようと、あがいていた頃だから、なんでもいいから時代物以外を、ということでコレを描いたんだと思う。いきなり2000年代ではなくて、いったん1980年代でワンクッション置いたつもりだったんだろうか?これは何の資料も見ずに描いたのは覚えている。背景はどこかのコンビナート風。太平洋ベルトと呼ばれた工業地帯にはこんな不良達もたくさんいたんじゃないかという勝手な想像によって背景が決められた。線路の幅がせまいのはトロッコ用なのだろう。
以前のブログ記事「わたしの句読点」にアップした「煙草と女」の絵と通じるものがある。わりとこういう雰囲気、得意かもしれない。
「煙草と女」はこちら
渋谷の「たばこと塩の博物館」で東京イラストレーターズ・ソサエティの「わたしの句読点」なる展覧会をやっています。(6/6〜7/5)「たばこと塩の博物館」の入場料はたったの100円!(高校生以下の団体だと、なんと20円!)近くに寄ったら行くしかない!常設展示も面白いですよ。さてこれは、僕の出品作。なかなかの出来だと思うんですけど…。なにしろ5枚も失敗したから。でも、この絵どこかで見たことあると思いません?そう、このホームページのトップ画面の絵の部分を拡大したものなんです。5枚失敗して、行き詰まり、画題をかえて(というか、昔描いた絵をパクって)ようやく成功しました。
今回は作品集も作られました。表紙は和田誠さん。和田さんといえば「ハイライト」のパッケージデザインや「ピース」の広告で縁が深いことは、イラストレーターならもちろん知っていることだけど、「ハイライト」の青と白の色を真似して「新幹線」の車体の色が決められたという話もある。
さて、この表紙のバックの茶色、和田さんらしい品のいい色だな〜、と思ってはいたんですけど、隠された秘密があったのです。先日、画材屋さんで紙を選んでいたら、これと同じ色の紙があったんですが、その紙の名前が「たばこ」だったんです!たばこの葉っぱの色ね。たぶんそういう意図のもと、バックの色を決めたんだと思うんですが、さすが和田さん芸が細かいと、感心いたしました。
たばこと塩の博物館
「開明墨汁」のご協力により東京イラストレーターズ・ソサエティ、略してTISの展示が銀座「松屋」で開かれた。といっても3月の話で申し訳ない。、扇子や屏風、掛け軸と色々選べたのだが、僕は掛け軸を選んだ。理由は自分で頼むとなると結構いい金額になりそうなので、この際にやってみたかったから。「開明墨汁」は表装も手がけているのだ。
こんな感じです。それほどの出来ではありません。「開明墨汁」から提供された和紙が4枚で、うち本番用のいい紙が1枚。直接描くと4枚以内で成功する自信がなかったので、版画にした。ところがただ刷るだけなのに、3枚失敗して、残りは本番用の1枚のみ。神、紙に祈って刷ったら、なんとか出来た。これは偶然ではなく、高価な紙を使うと全然違うと実感した。絵がうまくいかないときは自分ばかり責めていた。しかし、紙や筆のせいもあるんだ。あんまり画材をケチるのもよくないなー。
文士シリーズ、今回は「座談会」。「座談会」というのを発明したのは菊池寛である。それはさておき、こんな座談会はもちろん実際あったわけではない。三島由紀夫が窓ガラスに張り付いてこっちを見ている。異様に足の長い石原慎太郎は正座ができなくてシビレがきている…。この絵は去年の「ボクラノ昭和時代」という展覧会に出したもので、僕は「三島由紀夫とその時代」というテーマで臨んだ。
石原慎太郎は「完全な遊戯」というのしか読んだことがないのだが、なんか凄い小説だったなぁ、とずっと心に残っていた。その正体をはっきりさせてなかったのだが、めちゃくちゃ面白くてためになるポッドキャスト「町山智浩のアメリカ映画特電」の第72回『ダークナイト』の巻を聞いたとき、そこで触れられていて、なるほどそういう意図で書かれたものだったのかと腑に落ちた。井伏鱒二は何冊か読んだけどみんなおもしろかった。そのなかでは「多甚古村 」がとくに好きだった。伊藤整は「若い詩人の肖像」や「日本文壇史」、タイトルは忘れたけど「チャタレイ裁判」の記録など、実在の人が登場するものが僕にはとりわけおもしろい。とくに「日本文壇史」は、明治以降の文士達をあたかもついさっき見てきたかのように書いている。全18巻もあるので、伊藤整の芸をたっぷり堪能するには最高の本だ。そろそろ読み直そうかと思っている。今東光はこれまた僕の大好きな映画「悪名」シリーズの原作者である。勝新のシリーズは「座頭市」も「兵隊やくざ」もどれも痛快だが、つい見返したくなるのは「悪名」なのだ。勝新と田宮次郎の演技を見ているだけでうっとりする。勝新演じる朝吉親分は、勝新とちがって酒が全く飲めない。ライスカレーが好きでその食い方もいいんだなぁ。
町山智浩のアメリカ映画特電
映画「悪名」
ひとつのスタイルを貫く人、いくつものスタイルを探る人、どちらが絵に対して真面目であるかはいちがいに言えない。もちろん、僕は後者のタイプである。理由は大きく二つあって、一つはスタイルを崩して描くと凄くヘタクソな絵になってしまう。スタイルは勝利の方程式だが、それ以外の方法では絵が描けないとなると、一体、自分は絵がわかっていたのだろうか?いい気になってたんじゃないだろうか?と自分の才能にまで疑わしくなる。それで他の道も行かなければならないと思う。
もう一つは、自分で描ける絵やその世界は、限られている。でも自分が好きな絵というのはもっと幅広い。そこから刺激を受けたら、自分もああいう風に描いてみたいと思うのは当然だからやってみる。それでスタイルが増えていくわけだ。
「器用貧乏」とは自分から最も遠い言葉だと思ってるが、そう言われたこともある。でも絶対違うから!
三島由紀夫を題材にした絵をよく描いているが、べつにおちょくっているわけではない。完璧に振る舞ってるようにみえて、ワキが甘い。三島由紀夫を尊敬すると同時に、ちょっと馬鹿に思うことってありませんか?やはりそこが魅力だと思う。深沢七郎は「馬鹿に思われるのも計算のうち」なのだが、三島由紀夫は計算外だろう。どっちにしろ人から馬鹿に思われるのは大事なことだ。
三島由紀夫と川端康成は面従腹背の師弟関係だった。金閣寺をバックにそんな二人を描いてみた。絵を描く時は、何も見ないで描くことも多いけれど、この場合、顔や建物は資料を参考にした。金閣寺の写真を探してたら、本棚からこんな雑誌がでてきたので構図もパクらせてもらった。(最近相撲ネタが続いてるな…。)