伊野孝行のブログ

静物画実験室

美術の授業でまずはじめに、バナナやリンゴや空き瓶で、「静物画」を描いたりします。いきなり人物や風景は難しいから、とりあえず練習に…ということなんでしょうか、あまりワクワクした経験がありません。ときどきイラストレーションの仕事で「モノ」を描いたりしますが、あれは静物画なのでしょうか?何か違いがあるはずです。セザンヌ、ゴッホ、モランディ、長谷川隣二郎、高橋由一…巨匠の絵と美術の授業で描く絵がまず違うのは「思い入れ」や「動機」ですね。「とりあえず」な気持ちで静物画は描いてはいかんと。ま、なんでもとりあえず描くとあまりいい結果はでないです。僕の場合、人物だとそれなりに動機が見つかるんですけど、なかなか「静物」に対しては見つかりません。う〜ん、と考えて描いてみたのがコレです。何でしょうコレは?

正解は「梱包用に入っている、隙間を埋めるための発砲スチロール」です。正式名称は何ていうのかわかりません。(別にクイズにしようと思って描いたわけではありません。)この捨てられる運命の発砲スチロール、意味のない形にみえて、隙間を埋めるというハッキリした目的があるので、一種の機能美が備わっていると言えなくもありません。これをシリーズで描いたら面白いんじゃないかな?と思っているのですが、電化製品も頻繁に買わないし(このあいだ掃除機を買ったら発砲スチロールのかわりにダンボールが入っていた)コレがなかなか集まりません。電気屋さんにもらいに行けばあるのでしょうが、恥ずかしくて出来ないんです…。

静物画

自分はのんきな野郎で、このブログもそれを反映していましたが、さすがにのんきではいられず、何を書いていいのかわからなかったので先週は更新しませんでした。ちょうど仕事もヒマで(いつもですけど)家で何をしていたかというと、「ゴミ箱」を写生していました。去年の暮れに長谷川潾二郎を観に行ったのもあるし、高橋由一ってそういえば変なものばっかり描いてるよな〜、と「静物画」が気になっていたのでした。この「静物画」は仕事でもないし、個展のためでもないので、完全に自由にやっていいのです。でもなかなかその自由のためにかえってどう描いていいのかわからなくなります。

もともと「静物画」は「nature morte 」で死んだ自然とかいう意味があり、骸骨や時計や切り花などを描いて「無常」を表したりもしてました。そういう意味は込めずとも、絵画的にどう表現するかといった目的など、なにかしら動機みたいなものが決まらないと、どう描いていいのかも決まらないので困っておりました。

が、この非常事態の時、ショックとふわふわした気持ちを紛らわすために、ゆっくり写実的に描けば時間もつぶせるし、ふだんそんな描き方しないのでちょうどいいと思い、そうすることにしました。最初は紙をクチャクチャにしたものを単品で描こうと思っていたのですが、木内達朗さんのツイートでそれをすでに描いているアーチストがいるのを偶然知り(しかもめちゃうまい、ちきしょー)すこし方向転換してゴミ箱を写生することにしました。

けっこう集中できました。昔は絵を描くことってこういう作業だと思ってました。写実的に描いたのなんて久しぶりなので作品の出来がいまいち自分で判断できません。なのでまだ見せませーん。

 

 

田嶋コレクション後編

今週も引き続き、田嶋健さんアトリエ訪問記です。今は3度目の「こけしブーム」なのだそうである。確かに数年前から友達のイラストレーターの間でも、こけしが話題になっていた。マトリョーシカはいつぞや、その座をこけしに奪われていたようだ。もちろん田嶋さんはブームになる前からこけしを集めているわけだが、新婚旅行でこけしを40体買って来たりと、愛情の注ぎぶりは半端ではない。一口にこけしと言っても系統がいろいろあり、僕はまったく詳しくないが、とりあえず写真に納めてきたコレクションをお見せしましょう。

ま、こんな具合にたーくさんあった。いまのところ200を超えるくらい。先日も3人新しく仲間に加わったようだ。そんな中から一番値がはったものを見せてもらったら(トーシロはすぐ値段を聞いてしまい、反省)ちょとビックリすることがあった。なぜならそのこけしは僕のよく知ってる人が作っていたからだ。このブログの熱心な読者な方(たぶん10人ぐらいかな?)ならおわかりなる「水中、それは苦しい」の竹内直夫さん(パリ在住)という人がいる。その竹内さんの高校時代の同級生で、奥瀬恵介さんという人がいて、詳細をはぶくが、10年以上も前のある日、この奥瀬さんが当時、一人暮らしのオンボロアパートに僕を訪ねてきたのだ。色々語るうち、「奥瀬さんの実家て何やってんの〜?」と聞くと「おふくろがこけし作ってるよ」と言う会話があった。その当時はマトリョーシカの時代であって、こけしは「今に生きる伝統芸能」という感じではなかったのだ。「へー、こけしを作ってんだ…」という、正直に言えば、なんとなく寂しい感想を持ってしまったのだが…ご覧ください!このこけし&本の表紙を。奥瀬恵介さん作のこけしだったのだ。いつのまにこけし職人になっていたんだ。とにかくめでたい。そしてこけしコレクターの田嶋さんが大枚はたいて買ったこけしが僕の知り合いの作だなんて、なんというつながりであろうか。ははははっ!僕の友達が作って、僕の友達が買ったわけですよ、知らずして。というわけでこけしびっくりレポートはおわり。つづいて版画制作報告。これがプレス機です。100キログラムちかくあるので、床にも補強が必要。墨を入れる田嶋先生。手際がよくて気持ちいい。僕はみてるだけ。墨を塗った版。この版画は彫刻刀でバリバリ彫って作るのではなく、銅版画のエッチングのような技法で作ってます。田嶋さんがあみ出したマル秘テクニックなのだ。この状態は写真のネガの感じに近いのかな。この技法では彫ったところが線になって出て来るのです。限られた時間の中での仕事だったので出来映えはイマイチ(これは僕の原画のせい)だったけど個展には出すと思うので見て下さい。河鍋暁斎の肖像画のつもりです。プレス機で刷っているところ。このサイズの版画を手で刷るのは大変な力作業だが、これがあれば、グルグルっと回すだけでラクチンに刷れる。ただ家にこのプレス機を置く勇気が必要だが。最後にパチリ。あ、ちょっとおもしろい顔になっちゃったな。この時は田嶋さんが自作の版画を刷る準備をしているところ。黒は墨で刷るが、色はオイル系のインクで刷るそうだ。田嶋さん色々お世話になりました!田嶋さんのお友達の寺山さん、醤油豆ありがとうございました!あれは最高ですね。(田嶋レポート・完)

田嶋コレクション前篇

先週、長野県佐久市にある田嶋健さんのアトリエに行って来た。目的は年末にひらく個展用に、大型版画を制作するためである。田嶋さんの住んでいる付近は日本で最も海から遠い場所だそうだ。田嶋さんの運転してくれる車の中から「鯉料理」の看板が何軒か見えた。海のド近所に生まれた自分は鯉料理はフライしか口にしたことがなく、洗いや、鯉こくなどどんな味がするのか興味があったが、田嶋さん曰く「泥臭くて、まずい」そうだ。ちなみにその晩は中華料理を食べに行った。うまかった。

玄関を入るとアールブリュットの作家、佐々木卓也さんの絵が飾ってあった。今年の干支、虎の張り子とともに迎えてくれた。あるぞあるぞと、期待していたがふと目をやったこんなところにもコレクションはあった。隙間の角度にあわせて買って来たというだけあって完全に収まっている姿が微笑ましい。

ここがアトリエ、版画のプレス機が主役である。手前の本や雑誌はさっそく私が散らかしてしまったもので、元はスッキリ片付いていた。反対側には合理的な収納スペースや版画乾かしコーナーがあったが、写真を取り忘れた。このアトリエにはロフトもあり、私はそこに泊まらせてもらった。写真がヘタで残念だ。かっこいいアトリエだったのに。そしてコレクションの数々、写真に収めて来たのでみてもらいましょう。まずは郷土玩具コレクション。

一個いっこ手に取って見たらみんなとても面白そうなのだけど、とにかく数が多すぎて手が出ない。「なんかおすすめとかある?」と聞いたらこれを出して来た。これは不思議だ。右の方は顔の裏側ではなくてこれが顔の正面なのだ。郷土玩具のくせにやすやすとアートしてしまっている。

そうそう、今回私が貢ぎ物としてもってきたガラクタはこの3つ。私はこういうものを収集しているわけではないがボロ市で箱の中から漁って来たものがこれだ。喜んでいただけただろうか?郷土玩具だけじゃなくて絵馬もあるぞ。

そしてこれが田嶋さんの版画作品だ。かっこいい。鯉は嫌いって言ってたけどね。味と形は別だから。田嶋さん家に着いたときからカエルのけろけろ鳴く合唱が耳にとても心地よかった。アマガエルが多いらしくて、夜になると家の明かりに集まる虫を食べるために窓ガラスにへばりついているらしい。夜になって外に出たら確かにいた。

このあと、こけしコレクション、版画制作とレポートは続くが、疲れたのでまた来週!
田嶋さんは日本一精悍な顔をしたイラストレーターである。ここをクリックしてその顔と作品を見て下さい!

 

 

港の中から誰かが呼んだ?

小学5年生の時、公文(くもん)の帰り道、自転車で港を走っていた。…ところまでは記憶にあるが、気がついたら溺れていた。

全く不思議である。落ちた記憶はないのに気がつけば海の中だった。溺れている間に記憶が消えてしまったのかもしれない。

当時はまだ泳げなかった。港の岸壁にはフジツボがびっしりついていたがそこに手をかけることも不可能だった。海の中から見上げる空には月が出ていた。溺れている時、むやみやたらに手足を動かし呼吸するのに必死だったが、頭の方は他のことを考える余裕があった。この月が見納めの景色だとか、友達の顔などが走馬灯のように順番に出てきたリだとか…短い人生だとは思わなかった。どれくらい時間がたったかわからないが、空に人影が現れて、長い竹竿をさしのべてくれた。この見ず知らずのオジさんがいなかったら、翌朝水死体で発見されていただろう。夜釣りをしていたオジさんは溺れる音を聞きつけてくれた。そこらへんに置いてあった海苔の養殖用の太い竹竿につかまらせようと機転をきかせてくれたのである。(顔がちょっと水木しげる先生風になってしまったが…)竹竿につかまり、何度もずり落ちたが、なんとかよじのぼって、助かったのであった。めでたし、めでたし。その晩は死の恐怖で泣きどおし、しばらく港にも近寄れなかった。翌日、こっそりと親父が自転車を引き上げに行った。ナイショにしていたのに「昨日誰かが溺れていた」という話は町に広がっていた。しかし、なぜ落ちたのかわからない。ぼんやりしていた子供だったので居眠り運転でもしてたのだろうか。おわり。

点取り占い第1集

「点取り占い」が好きなので…。本家ののんきさはにはなかなか到達できない。(画像はクリックで鮮明に!)