伊野孝行のブログ

ロックな顔

山中貞雄の現存する3本のシャシン「丹下左膳余話・百万両の壺」「人情紙風船」「河内山宗俊」は日本人ならどうしても観ておかなくてはいけない遺産だ。遺産といっても、重苦しさとはほど遠い、さわやかな風を感じるだろう。「丹下左膳余話・百万両の壺」は最高のコメディだが、当時の人は椅子からずり落ちたのではないだろうか。なぜならそれまでの丹下左膳は、おどろおどろしくコワイ怪人だったのに、おもしろいオジサンになっていたのだから。(この作品以降、丹下左膳のキャラクターは山中貞雄の作ったものを踏襲するようになるが、そろそろ怖い丹下左膳でリメイクして欲しい。)山中貞雄は時代劇しか撮ってないのが不思議に思えるほど作品が現代的だ。当時は京都で時代劇を撮り、東京で現代劇を撮る、というふうに撮影所が別れていた。それが理由らしいのだが、山中貞雄が撮りたかった世界は時代劇だったから、余計に新しさが際立ったのかもしれない。僕が初めて観たのは10年程前、千石にあった「三百人劇場」だった。超満員で上映中にも笑い声が絶えず、最後はみんな拍手をしていた。60年まえに作られた映画なのに、時代背景をまったく考慮しなくてもいい。天才のエネルギーは何ものもさえぎることが出来ない、と実感したのだった。ところで、大河内傳次郎は日本の役者の中でもっともロックな顔をしていると思ったのでこんな絵も描いてみました。

 

 

はみだし者の美学

朝青龍が優勝したので、朝青龍を描いた絵でも載せておこう。

絵に描くぐらいなので、もちろん好きなのだが、優勝してうれしいというのはない。白鵬が勝っても別に良かった。贔屓の力士を応援するというレベルではなくて、全体的に相撲のファンなのである。朝青龍は、ハラハラするのも楽しみのひとつなので、品格をつけて欲しいだとかは思わない。今場所は、散々問題を起こしておいて、また力でねじふせたところが愉快だった。これからも問題を起こすことは、まちがいない。そんな彼のどこが好きかと言えば、朝青龍の短所がすなわち長所になっているところが好きなんだと思う。

 

 

茂田井武の怖い絵

茂田井武は僕にとって最高の画家の一人である。茂田井武のことは、気の利いたイラストレーターならもちろん知ってると思う。え?ご存知ない?今からでも遅くない。吉祥寺のトムズボックスには茂田井武の本が充実してるから、買いに行こう!ついでに僕の「ゴッホ」も置いてあるから買ってね♡

それはさておき、なんでこんなに可愛い絵が描けるんだろう、と何度もため息をつかせる茂田井武が、怖い絵も描いていたという話である。まずは絵を見てもらおう。クリックするとでかくなります。

これは僕の持っている「名作挿絵全集」の第8巻「昭和戦前・推理怪奇小説篇」に載っているものだが、最初見た時は、こんなのも描いてたんだと驚いた。そして絵がめちゃくちゃイイ!この後、茂田井武は童画に本格的に取り組みだす。その天才は時代を超えて我々を魅了してやまないが、「かわいい」の奥にはこんな「こわい」があったのだ。しっとりとした絵の肌合いがこちらの心も潤してくれる。茂田井武の絵は何度見ても、その度にヤラれたな〜と思う。こんな風に描けないなと、絶望しながらも絵が描きたくなる。だから茂田井武は最高だ!

なのに去年「ちひろ美術館」でやっていた展覧会を見逃した!馬鹿だ!

 

 

小林ヒロアキさんのこと

何のためにブログをやっているか?自分の宣伝のためである。だけど今日は他人の宣伝をしよう。ぜひ、多くの人にこの人の存在を知って欲しい。彼の名前は、小林ヒロアキさん。自らを「ロックンイラストレーター」と名乗っている。「ロックンイラストレーター」とは語呂がいいが、僕は小林さんは芸術家だと思っている。岡本太郎の言う「芸術」の定義にもピタリとあてはまる、真の芸術家だ。僕は小林さんの作品を見ると、いつもジーンときてしまう。言葉はいつも直球で、なおかつ(これがスゴいとこなんだけど)クサくない。「今日の芸術はうまくあってはならない(岡本太郎)」のとおり絵はヘタである。この言葉にはこの絵しかない。うまい絵だったら説得力がこれほど出ない。

下の絵は、去年の個展のハガキになっていた絵だ。小林さんから次のようなメッセージとともに送られてきた。「私の尊敬する画家の谷内六郎(ロックンロール!)さんを意識しながら、これからの子供たちが健全に育つための環境づくりの大切さ、をテーマにして!色々描いてます。」…アート界広しといえ、こんなテーマで個展やる人いる?自分の思ってることをドーンとぶつける。本来のロックンロールはこういうことなんだと思う。小林さんの世界は万人に受け入れられるものだ。奈良美智もファンだと公言し、大竹伸郎もエールを送る小林ヒロアキさんにもっと幸あれ!

この個展に関する小林さんのメッセージはこちら

 

 

ジョナサンに首ったけ

ファレリー兄弟の「メリーに首ったけ」でジョナサン・リッチマンを知った。映画そのものも大好きだが、不意に現れては歌いだすジョナサンの雰囲気、音楽、いっぺんに好きになってしまった。ただその時は、すごく気になってたが、探して聴くことまではしなかったので、そのままになっていた…。 去年、このホームページを作ってから、パリに住む友人の竹内直夫さん(音楽家。翻訳家。元、水中それは苦しい。)から「伊野くんは知ってるかもしれないけど…」というメッセージとともに、ジョナサン・リッチマンの「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ」が届いた。忘れてたジョナサン・リッチマン!それも自分と同じ「ゴッホ」という作品があるなんて。ゴッホの色のように明るい調子で、なんだか自分と同じことを言ってる気がして何度も聴いた。名曲だ。それからというもの、CDを買っては聴いている。DVDも取り寄せた。YOUTUBEもひっきりなしに見てる。下は16年前のジャケット。今はちょっと萎んでしまったけど、人生を積み重ねた大人の音楽も聴かせてくれる。竹内さんからこんな話を聞いた。「ライブのある日、誰かに話しかけられたそうな感じで街をウロウロしていたジョナサンに、日本食料品店で買った梅干し(ジョナサンは菜食主義)を渡して、僕はあなたの音楽に救われたよ!って言ったらノー!て言うからこっちもイェース!て返したんだよ。」しばらくノー!イェース!とやりあって心を通わせたようだ。いいな。

それではここで一曲お聴きください。
ジョナサンリッチマンで「レズビアンバーで踊っていた頃」
続いて
ジョナサンリッチマン「Vincent Van Gogh」
ちなみに
伊野孝行「ゴッホ」