伊野孝行のブログ

世界満腹食べ歩き5~8

去年の秋にMacを7年ぶりくらいに買ったのですが、以前から使っているMacが完全にぶっ壊れてからでは遅いので、余裕を持ったのです。しかし、古い方のはまだ使えるので、案の定、秋が過ぎ、冬が終わり、春が来て…このまま夏も終わって、そのうち新品のMacが箱の中で古くなってしまいそうに感じたので、先日思い立って、ついに箱から出してみました。

それでならべて使ってみたところ、モニターに映る色がかなり違った。新しいのはやけに濃く、たぶんこっちの方が正しい色なのでしょう。

色校のチェック時に自分のMacで着彩した絵の色と、印刷物になった絵の色に、けっこう差があると思っていたのですが、モニターで見ている色がおかしかったとは。印刷されるとどうも色が濃く、ややもするとどぎつく感じられる時もありました。ところが新しいMacのモニターで見直した絵と、最近印刷物になった絵を見比べると、ほとんど忠実に再現されていることがわかりました。印刷屋さん頑張ってくれてたんだ〜。

時々「モニターのキャリブレーション」ってのをやらなきゃいけないらしいのですが、よくわかりません……。

さて今日のブログは岡崎大五さんの「世界満腹食べ歩き」です。小説現代ではただいま13回まで進んでいますが、私のブログでは4回までしか紹介していませんでした。というわけで今日は5回から8回までの絵を載せましょう。アフリカ1アフリカ25回目は岡崎さんが海外専門の添乗員をやっていた頃にアフリカ・サハラツアーに行った話。とにかく苛酷です。バイキングの1バイキングの26話目はタラをめぐる冒険。タラという魚を追いかけて世界が出来上がった!?サーフ1サーフ27話目は岡崎さんが若い頃、ちょと鬱病っぽくなってインドネシアの島でサーフィンばっかりやって暮らしてた頃の話。スクーターに豚をくくりつけています。シルク1シルク28回目は近年、岡崎さんが奥さまとシルクロードを旅した時の話。こちらは前編。地図を描くとき、この国はここにあるんだぁ、と思う地理に弱い私。

岡崎さんの人生ってのはネタの宝庫だ。パソコンのモニターがどうしたこうしたなんて言ってる自分が小さい。しかし、言葉の通じない知らないところに行くとオドオドビクビクしてしまう私には、狭い世界で生きるのがお似合いだろうな。

行ったこともない国の写真を見て(岡崎さんから毎回資料が届く)、画像検索して、シコシコ絵作りをしていると、私までちょっと脳内トリップをした気分になります。

ハァ〜……今度生まれ変わってきたら旅行好きな人間になりたい。

パノラマ世界史1000年

大月書店から発売中「輪切りで見える!パノラマ世界史 第2巻」(監修:羽田正先生、文:内田力先生)にたくさん絵を描いております。このシリーズは全部で5巻あります。最近全5巻無事に完結したそうです。わたしが担当した第2巻は「さまざまな世界像」と題され、750年〜1350年の世界史をあつかっています。たーっくさん絵を描いたので、時々載せます。で、今回は1000年ごろの話。まずは「社会のしくみ」を約束と信仰をテーマで。1000年しくみ1騎士の忠誠1000年しくみ1-2知識と真理を求めて1000年しくみ2その宗教にします1000年しくみ④君主を囲んで1000年しくみ⑤試験管は皇帝陛下1000年しくみ3物語のなかへ

はい、続きまして1000年ごろの人々のくらしはどうなっていたかというと、この時期は地球の温暖化に当たっていました。「中世温暖期」とよばれるらしいですね。1000年くらし①差し替え領主様の畑を耕す1000年くらし1海のむこうへ1000年くらし2馬は相棒1000年くらし④差し替え石像づくりはじめました1000年くらし3断崖に住もう1000年くらし3-2税をあつめに行って来ます

絵と文章のタイトルだけ載せました。絵には、内田力先生のテキストがついています。絵だけ見ても、なんのこっちゃわからないと思いますが。本は下記のサイトでも買えます。

大月書店のサイトはこちら!

 

 

モランディ/長沢節

モランディを知ったのは20代の半ば頃、セツに通っていた頃だったかな?くわしい時期は忘れてしまったけれど、はじめて見た時はそりゃ驚いた。絵の冒険というのはチョモランマやアマゾンの秘境を訪ねなくても、ごく身近な庭のようなところで出来るんだなと思った。

練習曲がそのまま作品たりえるというか、細かい実験の差が、作品ごとの個性になっている。バッハの平均率クラヴィーア曲集を聴いてるようで気持ちいい。

バリエーションをつけまくった画家の絵よりも、逆にモランディの方が楽しめるかもしれない。同じような絵に見えるけど、みんな違う。間のとり方が無限にあるのを、目の前でやって見せてくれる。

先日、東京ステーションギャラリーにモランディ展を観にいったのだけど、意外に画集で見ていたときのほうが刺激的に感じた。ページをめくると次の作品がパッと現われる。その方がモランディの実験がくっきり見えた。

展覧会の広い部屋にずらっ〜と絵が並んでると、一つ一つの作品の差より、同じような絵が続くという空間の印象を先に受けてしまった。モランディの絵を並べるのはむつかしいのかもしれない。

いや、そのとき私は少し急いでいた。そもそもそんな見方はいけない。急いでいる奴には気づかない時間を押し広げて、そこで仕事をしているのがモランディなわけだから。モランディ静物画っぽくモランディの肖像を描いてみた。この絵は「画家の肖像」という作品集に入っている。「画家の肖像」はハモニカブックスより発売中です。クリック↓

「画家の肖像」はいつのまにかamazonで買えるようになっているではないか!

……なんだよ、モランディのことを語り出したと思ったら、おいおい、宣伝か〜い!

オマケにもうひとつ宣伝じゃーい。小説すばるで連載中の「ぼくの神保町物語」第2回は「長沢節信者」と題して、セツに通いはじめた頃の話を書いてます。IMG_1498IMG_1511思い起こせば昨日のことのよう……であるが、なんと22年も前の話であった。そして先生が亡くなってからもうすぐ17年。あの頃から気分は全然変わってないので、昔話をしている感じがまったくしない。最近は作文を書くにあたって、あの頃のことをよく考えているので、なおさら昨日のことのようだ。IMG_1512絵の隅に”This picture on Mr.HozumiKazuo’s work”と書き入れましたが、この挿絵はセツの第一期生、穂積和夫先生がかつてお描きになられた「セツ・モードセミナー案内図」を下敷きに、っていうかオマージュ、っていうかパクリ……はい、そんな絵です。IMG_1513細かいところは色々私なりに……描いてます。今年はこの作文のことで頭がいっぱいです。

ご近所さん/目黒の鰻

最近やった装画のお仕事をば。ひとつめはKADOKAWAから発売中の群ようこさんの新刊「うちのご近所さん」です。IMG_1493うちのご近所さん1なんでも、群さんのすぐご近所に担当編集者が住んでいて、その近所にデザイン事務所があって、そのまた近所に私が住んでいるらしいのです。というわけでタイトルにちなんでご近所さんで本を作ったというわけです。デザインはbookwallさん。IMG_1494うちのご近所さん2続きましては双葉文庫の新刊、早見俊さんの「千代ノ介御免蒙る 目黒の鰻」将軍様が手にしているのは番付です。江戸時代は相撲だけでなく、いろんな番付が作られていました。番付のまん中には「御免蒙る」って書いてあるんですよね。番付がどう物語に絡んでくるのでしょう。IMG_1495文庫のカバーデザインは長田年伸さん。下はPOP広告のカードです。デザインはビーグラフィックスさん。ポップ目黒の鰻確認用いつもとちょっと違う感じに描いてみたのです。線のスピードを弱めて。書店で見かけたら、よろしくおねがいします。

カラヴァッジョ人生双六

先週のブログの記事は、「美術手帖」の3月号で宮川香山の人生双六を描きました、という内容でした。で、今週は「芸術新潮」の3月号でカラヴァッジョの人生双六を描いてます、という内容です。

「美術手帖」と「芸術新潮」というすごく狭い範囲の中で、大活躍。しかも同じ3月号で、人生双六をどちらにも描くという……。これは私の人生双六では、「調子にのって3マス進む」という状態ですが、禍福はあざなえる縄の如し、露出が頻繁になると、飽きられることを心配しなくてはなりません。

イラストレーターなんつうのは服のような存在で、かつては毎日のように着ていたお気に入りの服も、ふと気づくと、流行遅れのような気がして、新しい服と取り替えられる……そういう立場であることを肝に銘じて、なんとか飽きられないようにしなければ生きていけないのです。

16世紀のイタリアで悪名を売ったこの男には、私のようなチンケな心配はあったのでしょうか。38歳で死んじゃったから、心配が人生に追いついてなかったかもしれません。なんてったって、美術史上もっとも素行の悪い画家でっせ。ka1ネームは編集部が考えてくれますが、この出だし、なかなかぴったり。勝小吉というのは勝海舟のオヤジで、自伝『夢酔独言』に書かれる勝小吉の人生もまたメチャクチャで痛快です。『夢酔独言』私は二回読みました。ka2ka3ka4ka5ka7ka6ま、カラヴァッジョ人生双六の全貌は「芸術新潮」で見ておくんなさい。国立西洋美術館では15年振りのカラヴァッジョの大展覧会も開催されているようです。ka8ka9同特集ではこういう、にぎやかしのカットも描いてます。

それと「芸術新潮」ではアートの語りべ、アートテラーのとに〜氏(元吉本芸人の好青年)といっしょにやっているマンガ展評「ちくちく美術部」も連載中。今月号で連載も11回目。名前のとおり、ちくちくするのが仕事なのです。内容とは関係ないけど、とに〜部長といのっち部員のボーイズラブなコマを入れてみました。描いていて気色悪かったです。chi

明治の超絶技巧!!

発売中の美術手帖3月号は「超絶技巧!!宮川香山と明治工芸篇」

〈2000年代以降、再評価とともに注目が高まる「明治工芸」。 それは、幕末から明治へという大きな時代の変化のなか、 職人たちが試行錯誤を重ねて生みだしたものだった。 金工、漆工、七宝、陶磁器などさまざまな分野で 空前絶後の写実性や細密さを誇る表現が花開き、海外で人気を獲得。 近代化を目指す日本の殖産興業を担った。 今年没後100年をむかえる陶芸家・宮川香山をはじめ、 明治の職人による超絶技巧は、今なお見る者を惹きつける。 時代背景や人物像を明らかにしながら、 明治工芸に宿る芸術の力に迫りたい。〉

……と美術手帖のサイトに書いてあります。興味のある方は是非、手にとって超絶技巧の作品に驚愕していただきたい。IMG_1426IMG_1427私は宮川香山の人生双六を描いています。宮川香山は今、サントリー美術館で没後100年を記念した展覧会をやっています。猫かわいいよ。

サントリー美術館/宮川香山

さらに、明治の超絶技巧の作家16人を必殺仕事人風に紹介するページも担当しています。このアイデア、なかなかオモシロイ。雑誌ならではの楽しい切り口で、超絶技巧工芸への入口にもなっている。12715922_927813747305925_6555247136151269660_oIMG_1429こうやって、仕事人とその作品が一見開きに載っています。

ざっと、私の描いた仕事人だけ紹介しましょう。その1左、濤川惣助 右、並河靖之

その2左、海野勝珉 右、正阿弥勝義その3左、川之邊一朝 右、鈴木長吉その4左、赤塚自得 右、白山松哉

その5左、安藤緑山 右、柴田是真その6左、石川光明 右、旭玉山その7左、錦光山宗兵衛 右、高村光雲 その8左、安本亀八と松本喜三郎 右、飯田新七

彼らがどういう必殺技を持っているか、それを知るには美術手帖を買うしかない!

ところで……私の手持ちの1978年筑摩書房刊行「明治大正図誌 第4巻 横浜・神戸」には宮川香山、旭玉山の作品が見開きで紹介されています。そしてそのページのタイトルは「スーヴェニール・アート」となっている。つまり「おみやげ」ですね。解説文では「……(前略)香山たち細密な技巧にたよる輸出品工芸作家の作品は奇をてらったもので、技術偏重という明治工芸界の傾向を代表している」という具合いに片付けられています。

四半世紀ほど前までは、明治工芸はこのような扱いしかうけていなかったわけですが、今は違います。こうやって美術雑誌で特集され、美術館で展覧会が開かれるまでになりました。美術史家の仕事は、美術史を書き換えることであります。歴史は書き換えられることを前提としてあるのです。

美術史家、学芸員の先生には、ぜひ次に、明治大正昭和の挿絵やイラストレーションをとりあげて、日本美術史の中に場所を作ってほしい。今はやっと、小村雪岱が人気出てきたところ。私の大好きな石井鶴三や茂田井武もまだまだ評価が足らない。なんつったって、日本国民のたくさんの人が普通に楽しんでいた絵じゃないですか。そこらあたりが、きっちり評価されると、ワテら、しがないイラストレーターにもおまけでラッキーなことがおこりそうな気がします、他力本願、他力本願。