新・伊野孝行のブログ

2022.10.5

『いい絵だな』発売!

本日10月5日、集英社より無事『いい絵だな』が発売になりました。(発行は集英社インターナショナル)
南伸坊さんと私による、ゆるくて刺激的な絵画談義です。

装丁は南伸坊さん。帯より上には著者名もタイトルもないデザイン。気持ちいい。

帯をとるとさらにすっきり。カバーに使ってる絵はアルベール・マルケ 。

書店の美術書コーナーには、絵の背景や画家の生い立ちを詳しく語る本がたくさん並んでいます。
美術の教養を得る喜び。絵を見ているだけではわからない事はたくさんあります。
また「絵ってどうやって見ればいいの?」という人には「絵の意味がわかれば面白くなりますよ」というアドバイスも有効でしょう

…でもそれって本当に「絵を見る」ことになるのかな?
いや、何もそういった教養を否定したいわけじゃないんですが、ただ絵を見るだけでわかることってたくさんあるんですよ。
帯の言葉をいただいた山田五郎さん(美術系youtube「オトナの教養講座」で絶大な人気)も、留学してた時、授業よりもヨーロッパ各地の美術館でひたすら絵を見たことが自分の土台になったとおっしゃっています。
僕も伸坊さんも絵を見ることに関しては、真剣に見てきたと思います。美術館の絵だけじゃなく、雑誌のカットも、素人の落書きも、おしなべて真剣に見てきた。
あと僕らは絵を描いてきました。絵を描くことで作られていく回路があるように思います。

世の中では「デッサンは絵の基本」と言われていますよね。僕もそう思っていました。藝大や美大に入るには石膏デッサンの試験があるし、それでふるいにかけるんだからそうなんだろうと。ピカソはキュビスムでめちゃくちゃな絵を描いてるけど、若い頃は神様のようにデッサンが上手いです。
ところが自分で絵を描きはじめると、デッサンが上手く描けることと、ピカソの絵はどう繋がっているのか、自然に疑問を持ちはじめます。抽象画の画面のどこを探してもデッサンなんて見つかりません。それでも「デッサンは絵の基本」なんでしょうか?
本書ではそういう、絵を描いてるうちに思った疑問から入っていきます…
おっと、その前に、絵を見て感激したり、面白い!と思ったとから話は始まるんだ。

この扉の絵は伊野孝行作「高橋由一の肖像画」

第1章は高橋由一から。高橋由一は写実的な表現で本格的に油絵を描いた、日本洋画の始祖ですが、次の世代の画家に比べるとそんなに技術は高くない。
…そこまでだったら教科書的見解です。僕らにとっては、由一の絵は日本絵画史上最高に、写実表現を描く喜びに溢れた絵であります。もう、嬉しさがさ、滲み出てるんですよ、画面から。
絵は描く人の気持ちがそのまま表れます。不思議ですね。まず、そこをちゃんと味わいたい。
高橋由一以前にも、以降にも写実表現を取り入れようとした画家がいます。第1章の高橋由一を起点に、話は江戸時代や近代や海外に転がりますが、みんな「絵を見ることでわかること」のみで繋いで話しています。絵は他の絵に影響を受けるわけなので、絵自体が他の絵の解説にもなっているんです。

『いい絵だな』というタイトルは編集の松政さんが考えてくれました。実はタイトルをつけるのに難航していたのですが、松政さんの口からこのタイトルが出た瞬間、「それだ!」となって、カバーのアイデアもすぐに決まりました。

僕は絵の意味や背景を知ることも面白いと思うけど、まずは言葉から離れて絵を見ることが、何よりも決定的に重要だと思うんです。
絵の意味を知るのはその後でいい。意味は脱衣所で脱いじゃいましょう。裸になって首までお湯に使って「あ〜いい湯だな」ってため息ついて、その後でお湯の成分や効能が書かれたプレートでも読んだらいいじゃありませんか。
そっちの方が、正しいお風呂の入りかた、いや、絵の見方だと思うのです。

この本を出すの長年の夢でもありました。
さかのぼる事12年前。はじめて伸坊さんと時を忘れて夜更まで話し込んだあの日。
本来、本を読んだ後のデザート的存在な「あとがき」ですが、当ブログの読者様にだけ特別に公開します。

この画像はサイズがでかいので読めるはず

集英社インターナショナル『いい絵だな』ページはコチラ!冒頭部分立ち読みできます。