新・伊野孝行のブログ

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2020.9.1

軽井沢の魑魅魍魎

8月11日に更新をして以来、2週連続でブログの更新をサボってしまった。
その間はずっと軽井沢の個展期間だった。ブログというのも気持ちにヒマがないとなかなか更新できないものなんだなと思った。軽井沢でそんなに気忙しいことがあったのかというと、何もない。
朝7時半になると、泊めていただいている離れから母屋に行って、朝ごはんを食べ、夜はまた7時半くらいには夕食と酒が用意されている。至れり尽くせりである。もちろん気候は爽やかな軽井沢。そんな生活を20日間も得られた。

おかしい。どう考えてもブログの更新をするくらいなんのことはないじゃないか。やはり非日常だからだろうか。そういえば、いつもはひっきりなしに見ているスマホもあまり覗かなくなった。終わってみれば、あっという間の20日間だった。お世話になったTさん、タジケン他、軽井沢の友人に感謝でございます。
また、心配していた絵の売れ行きだが、案に相違して9割方は売れた。これも財布の紐を緩めていただいた皆さまのおかげでございます。今週は展示した絵を振り返って終わりたいと思います。

『Zombie Marathon』
ゾンビのマラソンは42.459(死に地獄)キロ走る。
ゾンビマラソンにエントリーすると不吉な数字のゼッケンが配られる。
沿道で見ていると、給水がわりに噛みつかれるのでご用心。

『タコ』
暑っつ!暑っつ!あ〜暑っつ!
標高1000メートル近い軽井沢もお盆の週は暑かった。軽井沢がこんなに暑いんだから、日本全国茹で上がってたでしょうね。

『かっぱ』
涼やかに。キュウリでも食べながら。

『ガイコツ』
冷たいものを食べ過ぎるとお腹を壊すよ、ガイコツさん。京都の酬恩庵一休寺で見ることができるでしょう。

『くもりなきひとつの月をもちなからうき世のやみにまよひぬるかな』
「一休骸骨」にある道歌です。
金をふんだんに使った高級感と無常感あふれる作品です。

『タコとの遭遇』
今回の個展のために描き下ろした絵の中でもっともお気に入りのシュルレアル・タコ絵画。
「ねぇ、自分で刀ぬけるよね?縄切ったら?」と、タコが言ってるかどうか知らないが、描いてる時には気がつかなかった。
上のガイコツとともに大阪の茨木市にある「STOMPSKUNK」というバーに飾ってあるかもしれません。

『Dancing Bon Festival』
お盆で踊るのは踊り念仏からかな?
この作品は気に入っていたので売らないつもりでしたが、ちゃんと表装して、青山ベルコモンズ跡の商業施設に出来る、蕎麦と信州の素材を使う石窯料理や日本酒を提供する「川上庵 東京」の壁にかかるらしいぜ。かかったら蕎麦を食べに行こう!

『無常画』
諸行無常でございます。
絶対売れないと思っていたが、案の定売れなかった。でも、個展のテーマを考えたらこういうのも描いておかねばならないと思いました。

『河太郎』
大好物をひとりじめ。

『日日是好日』『無縄自縛』
どちらも禅語から。

『お菊とお岩の井戸端会議』
結局女が勝つのさ。

『百鬼夜行〜すべてはスマホに中に〜』
使命を終わらさせれたメディアたちが付喪神(つくもがみ)になって行進します。
絵巻の百鬼夜行では最後、朝日が昇ってみんな退散する。この百鬼夜行ではスマホの光に溶けていく…トンチと風刺の効いた作品です!

『Villa Monster』
ラーメンを食べに出ている間に、飛び込みで来られたご夫婦がお買い上げくださったと連絡が。なんと洗練されたご趣味をお持ちのご夫婦であろうか。さすが軽井沢の別荘族。

『地獄太夫』
ぼくが在廊していない時に、全身にタトゥーを入れた若者が「この絵、写真に撮っていいっすか?」とパシャパシャ何枚も撮っていったという。そう、そんな紳士淑女のためにこの絵は描きました。

『おツネとポン太』
実はこれだいぶ前に描いた絵なんですが、狐と狸が化けてるってことにして今回出品しました…どうでしょうか。

『三遊亭圓朝の肖像』
近代落語の祖、三遊亭圓朝の肖像画。『牡丹燈籠』『真景累ヶ淵』『怪談乳房榎』の作者であるが、歌川国芳の弟子でもあった。

『異変』
以前、百人一首をテーマにした展覧会で慈円の「おほけなくうき世の民におほふかな わがたつ杣(そま)に墨染の袖」という歌を絵画化した作品なんですが、タイトル変えて出品してしまいました。すみません。

『折りたたみ色紙』各種
この他に写真を撮り忘れたのが2、3点あったはず。












『心中』
許されない愛を成就させるために死を選んだふたり。この世のすべてはうつろいゆく。愛もまたそうです。しかし生の世界を離れれば、愛は永遠…になるのかもしれません。
最終日、閉廊まであと15分という時に、これから結婚予定のあるカップルがご来場。この絵をお買い上げ下さいました。しかも親御さんにこの絵を持って挨拶に行くという。なんと洗練されたご趣味をお持ちの2人なのだろう。末長くお幸せに♡
こういうことが起きるので個展はおもしろい。

というわけで伊野孝行個展「恐怖の別荘地」in軽井沢は8月7日〜25日。旧軽井沢ローターリーにある酢重正之商店の2階で開催されました。多謝!

2020.8.11

軽井沢日記1

8月7日(金)晴れ
心配だった輪行(自転車をバラして袋に入れ、電車に乗せて、目的地に着いたらまた組み立てる)もスムーズに済んだ。自転車を軽井沢駅の駅前で組み立てている間「空気のさわやかなこと、さわやかなこと…」と心の中で感嘆する。

14時から搬入。7年前に展示をやった時の印象よりギャラリーが広くて、持ってきた作品では壁が埋まらないのではないかと焦る。
ぼくは搬入が一番嫌いな仕事だ。飾り付けのやり方は人それぞれだが、きっちり寸法を出して位置決めをするのはとても骨が折れる。でも「酢重ギャラリー」のTさんはだいたいの目分量で飾り付けするタイプだったので(ぼくに合わせてそうしめくれているのかも)助かった。

『シナリオ』の編集長の西岡琢也さんから花が届いていた。『シナリオ』の誌面のイラストは毎号ぼく一人で描いている。好きにやらしてくれる。ラフも描き直しも基本なし。そのかわりおカネは安い。
今月はめずらしく西岡さんから「田宮二郎の顔が似ていないので、もうひと超え」と注文が入った。田宮二郎は3回描き直したのだが、自分でもあまり似てるとは思っていなかった。3回描き直した挙句の絵であることを告げると、西岡さんは大変恐縮されて、そのままでいきましょう、と言ってくださった。しかし、会場に届いた花を見ると、やはり描き直さなくてはいけない気がしてくる。

晩ご飯は向かいの「レストラン酢重正之」で。
ぼくが展示をやっているのが「酢重正之商店」という味噌屋の2階。お隣は「酢重ギャラリー・ダークアイズ」という器や家具やアートのセレクトショップ。みんな同じグループなのです。それだけではない「川上庵」というお蕎麦屋さんや「沢村」というベーカリー&レストランもやっている。

8月8日(土)曇り
朝5時に目が覚めて、そのまま起きていた。期間中はTさんの家の「離れ」に居候させてもらうことになっている。カーテンを開けると素晴らしい眺め。

上の写真は「離れ」の外観。朝ごはんを食べに、すぐ隣のTさんの家に上がると、朝からエレファント・カシマシが流れている。Tさんは2年前にエレカシに出会った後は、朝どころか、車の中も、帰宅後もずーっと聴いているのだそうだ。

友人の版画家兼イラストレーターの田嶋健さんが来てくれる。田嶋さんとの付き合いはもう15年くらいになるだろうか。Tさんを紹介してくれたのも田嶋さんだし、今回の展示では軸装も田嶋さんに丸投げしている。田嶋さんはここから車で40分ほど離れた佐久市に住んでいる。稼業の「田嶋商会」の仕事もあって忙しいので、15年の付き合いがあってもゆっくりと飲んだことはほとんどない。今日こそ飲もうと、言っていたけど、車で来たタジケンはノンアルビールだった。晩飯は「沢村」。
車で送ってもらう時、我々は濃霧に包まれた。

8月9日(日)曇り
どこでどういう条件でやろうとも、個展は緊張するというか疲れる。会場に詰めているとエネルギーが刻々と目減りしていく。東京で個展をするとお客さんの6〜7割が同業者。残りは編集者やデザイナーといった仕事仲間。知り合いでもない一般のお客さんが見にくるのは1割にも満たない。

ところが軽井沢では割合が逆転する。避暑に訪れた人々が時折、酢重正之商店で味噌を買ったついでに、わざわざ階段を上がって見に来てくれる。テーマをお化けや幽霊にしたのも、そんなお客様にも楽しんでいただけるようにしたかったからだ。みんなマスクをしているから表情がいまいちわからない。話しかけていいものやら。

ギャラリーで仕事をしようと思って、筆を竹製の筆巻きに巻いて持ってきたのだが、開いて見ると3本しかない。どうやらTさんの家(中軽井沢)からギャラリーまでの道のり(自転車で15分)で落としてきたようだ。筆は命。しかも1本3000円くらいする。目を皿にして道路を凝視しながら家とギャラリーを往復して、根性で2本発見した。あと、2本くらい持ってきてたはずなのだが…。そんなこんなで体内エネルギーの残量がチカチカしだしたので早引けする。

部屋でちょっと横になった後、Tさんの家の近所を自転車で走る。
なんて素晴らしいんだ!みるみるうちにエネルギーが充電されていく感じだ。

晩酌にタジケンからもらった地酒や、Tさん宅にあった紙パックの安酒を飲み比べたりしているうちにかなり酔ってしまった。

8月10日(月)晴れのち雨
昨日と今日はTさんのお孫さんたちと一緒に朝ごはんをいただいた。
今日は暑い!軽井沢でもこんなに暑いのか。
イラストレーターは絵を売って暮らしているわけではなく、絵の使用料をもらって生きている。いつも向こうから料金が提示される。展覧会は自分で値段をつけなくてはいけない。
ぼくの場合、展覧会で絵が売れることがあっても、ほとんどは人間関係で売れている。軽井沢で売るのは至難の技である。昨日から数点ずつSNSで作品を紹介している。そしたらまんまと京都のお友達が買ってくれた。おおきにどすえ。

8月11日(火)晴れ
今日も自然に5時起床。6時半、洗濯物がたまったので、家から自転車で20秒のところにあるコインランドリーへ。マガジンラックに和田誠さんの絵本が置いてあった。コインランドリーからは浅間山が望める。

朝ごはんを食べにいくと、当然のこととしてエレカシがかかっている(笑)。
さて、めんどくさいが今日はブログの更新日なのだった。ipadから更新するのがやりづらくすでに3時間も経過している。

2020.5.19

いもむしカマキリ珍道中

紙芝居『いもむしカマキリ珍道中』教育画劇から発売されました。
ときわひろみさん作です。

※ 以下は、ときわ先生のテキストではなく、私の勝手な語りですので、ご注意を‼︎

無声映画の活動弁士は世界中探しても日本にしかいません。日本で発明された職業だからです。
そして紙芝居もまた純国産の語り絵見せ芸能なのです。
ステイホームな人間世界。ステイホームしてない不届きものや、営業している店は見つけられたら密告される。江戸時代の五人組か?人間の黒い気持ちには新コロの100倍の毒があります。チンコロチンコロと転がるパチンコ玉にだけコケはつきません。キープオンパチンコ。
そんな人間世界の足元でふだんは遠慮している虫たちですが、人間どもがステイホームしている間に「どっか旅でも行こうよ」といもむし君がカモキリくんに持ちかけました。だってめちゃくちゃヒマなんだもん。

なのにいきなりの雨!
「わーい、ここが天気と雨の境目だよ〜!」「なかなか経験できるもんじゃないよね〜」

この後記憶が消えて、気づいたら牛にベロベロ舐められていました。
「ひゃあ〜!気持ちわる気持ちいい〜!」
虫たちは牛の舌は牛タンといって、人間たちが舌鼓を打っている食材であることを知りません。

「ハラ減ったよね、オレあそこの葉っぱ食べるわ」「いいなあ、そこら中が食料で。ぼくは狩りをするところから始めなきゃいけないんだヨ……」

「食い過ぎて、ポンポン痛〜いよぉ〜」「大丈夫?いもむし君、食べ過ぎだよ。だって木が丸裸になってたもん」

翌日、カマキリ君が目を覚ますと、いもむし君がいません。あれ?どこにいったのかな?ふと見上げると、紫色の餃子になって木にくっついてました!

はい、というわけでございまして、以上は子どもの心にすーっと届くときわ先生の文章とは正反対の、私が勝手につけた文章ですので、くれぐれも勘違いしないでくださいね。ちゃんと紹介しないと失礼じゃない? そうですよね、そう思います。でもちゃんと紹介しながら6枚も見せると、半分くらい見せちゃうことになるから、それもマズイじゃない。だけど1,2枚見せたところで印象に残らないでしょう。というわけで絵はまあまあ見せるけど、洗練されたほんとのテキストは買ってのお楽しみということでねー。

教育画劇「いもむしカマキリ珍道中」発売中!

紙芝居の世界をのぞきたい方はこちらもどうぞ。